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582 土魔法
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隠し部屋の壁が横にずれ、中から頭を覗かせたのは巨大な二足歩行のワニ。
ルキアスは片足をぶらぶらさせたまま身が竦んだように硬直した。だがやはり動揺したのだろうユアに服を握られたことで、硬直が解けた。
「うわわわわっ!」
「ルキアス君!?」
ルキアスは慌てて足を引き上げると、一目散に『傘』を飛ばして逃げ出した。フヨヨンはそんなルキアスにこそ驚いている。
だが臆病風に吹かれたルキアスのこれが幸いした。
魔物が咆吼を放つと、魔物を中心に床から壁から天井からガガガと岩が軋む音を立てて石の槍が次々に突き出して広がる。
「これは予想外の『土魔法』だよ!」
フヨヨンも驚きの魔法であった。その強力さもさることながら、使うなら『水魔法』の姿で『土魔法』なのだ。
「あれを正面からじゃ、わたしも厳しいわね」
質量を持たない『火魔法』は『土魔法』のように質量を持つ相手では分が悪い。
だがメイナーダの口調に危機感は無い。石の槍が広がる勢いは徐々に衰え、『傘』の逃げ足には遠く及ばなくなっている。加えて魔物が追い掛けて来るとしても、魔物自身が魔法で出した石の槍を乗り越えなくてはならない猶予もある。天井から床、壁から反対側の壁まで届く石の槍は魔法が解除されても障害物となるのだ。
ルキアスはここまで通って来た経路を逆行する形で右折する。
「あんなのの相手はタイラクにお願いしたいよね。剣を力一杯振ってみたくてうずうずしていたからちょうどいいんじゃないかな」
「タイラクさんなら倒せるんですか?」
「倒せるって言うか、タイラクならあの石の槍が多少当たっても平気そうだと思わないかい?」
「あ! 思います!」
タイラクは腕力で押し通るタイプだから力比べに等しい『土魔法』など構わず突き進む。ここはタイラクに任せるのが確実だ。
「とにかくタイラクを捜すとしよう」
フヨヨンが前方を指差した時、後方から致命的にさえ思える破砕音が聞こえた。
続けて聞こえる地響きのような音。酷く近く聞こえる。
フヨヨンとメイナーダが後方を確認すると、ついさっき右折した曲がり角から魔物が首を突き出し、こっちを振り返った。
「もう来た! ルキアス君、急いで!」
「ええ!?」
ルキアスは加速した。ここまでも急いでなかった訳ではないが、途中から少し安全よりに振って逃走直後より速度を落としていたのも事実だ。
魔物の足は見た目より速い。ルキアスが可能な限り速度を上げても引き離せない。もしも床を走っていたらとっくに踏み潰されてしまっただろう。
丁字路を真っ直ぐ通り過ぎる。フヨヨンが右折側に目を向けると、タイラクと目が合った。
ルキアスは片足をぶらぶらさせたまま身が竦んだように硬直した。だがやはり動揺したのだろうユアに服を握られたことで、硬直が解けた。
「うわわわわっ!」
「ルキアス君!?」
ルキアスは慌てて足を引き上げると、一目散に『傘』を飛ばして逃げ出した。フヨヨンはそんなルキアスにこそ驚いている。
だが臆病風に吹かれたルキアスのこれが幸いした。
魔物が咆吼を放つと、魔物を中心に床から壁から天井からガガガと岩が軋む音を立てて石の槍が次々に突き出して広がる。
「これは予想外の『土魔法』だよ!」
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「あれを正面からじゃ、わたしも厳しいわね」
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だがメイナーダの口調に危機感は無い。石の槍が広がる勢いは徐々に衰え、『傘』の逃げ足には遠く及ばなくなっている。加えて魔物が追い掛けて来るとしても、魔物自身が魔法で出した石の槍を乗り越えなくてはならない猶予もある。天井から床、壁から反対側の壁まで届く石の槍は魔法が解除されても障害物となるのだ。
ルキアスはここまで通って来た経路を逆行する形で右折する。
「あんなのの相手はタイラクにお願いしたいよね。剣を力一杯振ってみたくてうずうずしていたからちょうどいいんじゃないかな」
「タイラクさんなら倒せるんですか?」
「倒せるって言うか、タイラクならあの石の槍が多少当たっても平気そうだと思わないかい?」
「あ! 思います!」
タイラクは腕力で押し通るタイプだから力比べに等しい『土魔法』など構わず突き進む。ここはタイラクに任せるのが確実だ。
「とにかくタイラクを捜すとしよう」
フヨヨンが前方を指差した時、後方から致命的にさえ思える破砕音が聞こえた。
続けて聞こえる地響きのような音。酷く近く聞こえる。
フヨヨンとメイナーダが後方を確認すると、ついさっき右折した曲がり角から魔物が首を突き出し、こっちを振り返った。
「もう来た! ルキアス君、急いで!」
「ええ!?」
ルキアスは加速した。ここまでも急いでなかった訳ではないが、途中から少し安全よりに振って逃走直後より速度を落としていたのも事実だ。
魔物の足は見た目より速い。ルキアスが可能な限り速度を上げても引き離せない。もしも床を走っていたらとっくに踏み潰されてしまっただろう。
丁字路を真っ直ぐ通り過ぎる。フヨヨンが右折側に目を向けると、タイラクと目が合った。
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