生活魔法は万能です

５６７ 銃身

　アダマントの棒を二倍程の長さにして再挑戦。切削箇所とルキアスの間にはカーテンを取り付けて油跳ねも防止する。
　油を避けるためとは言え、見えない向こうからキリキリと破壊的な音が近付いて来るのには少々肝が冷えるルキアスだ。
　暫くすると棒がほんのり熱を持つが、触れないようなものにはならない。刃の回転が速くはないのと、切削油が冷却材にもなっているらしい。
　三〇分近い時間を費やして円柱は出来上がった。

「次はこれに穴を空けるよ」

　フヨヨンは旋盤のバイトをドリルに付け替え、慎重に向きや位置を調整して起動する。僅かなずれも許されない。
　銃身の長さの穴が空くまでには一時間程必要とした。

「次はライフルを刻むよ」
「ええ……」

　ルキアスは声を漏らした。ずっと棒の形は保ったまま柔らかくなるだけの『捏ね』方だったので既にかなり疲れている。人の脚で譬えるならずっと中腰になっていたようなものなのだ。
　フヨヨンは側面三カ所に刃の付いた棒を旋盤に取り付けた。

「ライフルを刻んだ後、銃身をカットしたら旋盤もお終いだからもう少し頑張ってくれたまえよ」
「はぁい……」

　フヨヨンは銃身に刃の付いた棒を都合一八回往復させた。これにも三〇分近くを要した。

「さあ、残るは切断だけだからもう一踏ん張りだよ」
「……早く終わらせましょう」

　フヨヨンは微かに苦笑を浮かべながら旋盤にカッターを取り付け、刃を締め付けて起動する。だが刃の方を回す都合で刃を絞るには一旦止めなければならない。数回転させたら止め、手で刃を絞ってまた起動を繰り返す。二箇所を斬るのに三〇分余りを要した。

「疲れた……」
「ルキアス君の仕事はもう少しあるからね」
「ええ……」
「マズルブレーキ取り付け用の爪を付ける作業だよ」
「あー」

　ルキアスもモックアップのマズルブレーキを外すところを見て記憶していた。そしてライフルを刻んだばかりの銃身にはモックアップにあった出っ張りがまだ無い。

「接着する時に潰れないよう、先っぽの方の中に鋼鉄を押し込んでくれたまえよ」

　爪を『捏ね』付ける際に潰れて形が変わるのを防ぐため、鋼鉄で塞ぐ。隙間が空いてはいけないが、ライフルを先に刻んだので事前に用意した詰め物が使えなくなったのだ。先にライフルを刻まなければならなかったのは、後で刻もうとするとルキアスが握っている部分の内側を刃が通るためだ。ルキアスの精神衛生と、万が一の時の安全のために先に刻んだ。
　次はフヨヨンが予め用意していた爪の型を填める。型には左右に四角く切り欠きが設けられていて、ここが爪になる。
　ルキアスがアダマントをその切り欠きに詰め、銃身に『捏ね』付ける。型は反対側から引き抜いた。
　最後に詰め物を『捏ね』ながら反対側から棒で突いて外に出す。

「うん。見込み通りだね。今日のルキアス君の出番はここまでだよ」
「やっと終わった……」

　妙に疲れたルキアスであった。