生活魔法は万能です

５６２ モックアップ

「何だか少し寂しく感じてしまうね」

　ザネクとシャルウィがベクロテに向けて旅立った日の夕食の時間。フヨヨンは四人だけで囲む食卓を見て呟いた。

「あらあらフヨヨンたら、いつから寂しがり屋さんになったのかしら？」
「どうだろうね」
「あらあらほんとにどうしちゃったのかしら」

　フヨヨンはその寂寥感を払拭するためかは判らないが、二日で銃の設計図を描き上げた後、一日でモックアップを作成した。
　その現物を手に持ち、ルキアスに見せる。

（大きい？）

　ルキアスの第一印象はこれだ。太い部分はルキアスが今使っている銃の五倍以上の断面積がありそうに見える。

「だいたいこんな感じになるよ。この前実物を用意してからって言ってた部分も説明するからね」

　説明と言っても「これがマズルブレーキだよ」くらいのものでしかない。百聞は一見に如かずだ。
　マズルブレーキは銃口の先端にある左右の出っ張りに四分の一回転捻って引っ掛けると、バネ仕掛けで固定される仕組みだ。バネ仕掛けは脱落防止機構も兼ねているので外す時には少しコツが必要になる。ただこの脱着方式はあくまでこの銃の方式だ。
　フヨヨンはそのマズルブレーキを取り外してルキアスに手渡した。
　マズルブレーキは内から外へと空気を流すように羽根が幾つも付いた構造だ。

「随分すかすかな感じですね」

　ルキアスの率直な感想だ。実物を見ても反動を軽減できるとは信じられなかった。
　フヨヨンは「見た目じゃそうだね」と笑う。
　続けてフヨヨンは銃を分解して駐退機を取り外した。モックアップは分解組み立てが容易なよう固定を甘くしているのであっと言う間だ。
　そしてその駐退機の前側をぐいっと押し込めば後が突き出、離せば元に戻る。

「これは見本だからこんなに柔いけど、実機になったらもっと固くなるからね」

　ルキアスはフヨヨンに差し出された駐退機を受け取り、同じように前側を押し込んでみる。強く押しても弱く押しても押し込める幅が大差ないのを不思議に感じた。
　大まかに機能を理解したところで駐退機をフヨヨンに返す。するとフヨヨンがまたモックアップを組み立てて手渡して来る。
　手に持てば見た目以上に大きく感じられた。一〇倍の重量にするためのバラストがそのスペースを占有するらしい。

「さすがにこれで重くなるんじゃ、中層の浅い所で使えませんよね？」
「え……？」

　ルキアスが今使っている銃でも撃とうと思えば七〇弾まで撃てる。標準弾の一〇倍の反動で大きすぎるから、実用的には五〇弾か六〇弾までだろう。しかしそれまでは変に大きく重い銃より使い易い筈だ。取り回しと威力のバランスを考えればモックアップの形そのままの重い銃では暫く『収納』の肥やしになる。
　そんな銃を今慌てて作る必要は無いように思われた。

「設計を少し考え直すよ……」

　差し戻しである。