生活魔法は万能です

５５８ 過ぎれば

「ルキアスちゃん、そろそろお昼にしましょう？」
「あ、はい」
「アダマントの調子はどうかしら？　どのくらいで終わりそう？」
「それはちょっと……。どこまで『捏ね』ればいいか判らなくて」

　最低限がどれだけか、最適がどれだけか、限界がどれだけか、何も判らない。

「パン生地だったら捏ね足りないと膨らまなくて、捏ね過ぎると生地がだれて腰が無くなるわね」

　メイナーダはアダマントがパン生地みたいになるかは判らないけどと言うが、ルキアスには聞き流せない話であった。

「『捏ね』過ぎたら材料がダメになっちゃうってことですよね？」
「そうだけど、きっと気にしなくて大丈夫よ。パン生地を魔法で『捏ね』ても腕力で捏ねても捏ね過ぎる前に疲れて『もういいや！』って感じになって止めちゃうから」

　捏ね過ぎるには機械を使うか余程気合を入れて捏ねる必要があるらしい。

「なるほど。ただどうなったのがだれた状態なのかは判るといいんですけど」
「あら、ルキアスちゃんは経験してる筈よ？　リザード先生肉を『捏ね』たら柔らかくなるでしょ？　あんな感じ」
「ええ!?」
「答えは案外身近にあるものよね」

　ルキアスはその時になれば判りそうだと何となく理解した。




　夕方になり、タイラク達が帰って来た。

「戻ったぞ」
「「ただいま」」
「お帰りなさい。今日の調子はどうだった？」
「一五階まで行ったぜ」
「あらあら、それは頑張ったわね」

　昨日までは第一三階だった。今日はいきなり第一四階層も突破しての第一五階層への進出である。

「たまたま階段が近くて、たまたま真っ直ぐそこに行っただけだけどね」

　しかしシャルウィが身も蓋もないことを言った。

「おいおい、バラすなよ」
「あらあら、簡単に予想できる話にバラすも何もないわよ」
「それよりもう今日は脚がパンパンでー」

　メイナーダが茶々を入れたからか、シャルウィはタイラクの苦言に取り合わずに今日の苦労話を始めた。要は自分語りだ。
　皆が適当に相槌を入れながら聞き流していると、シャルウィが「あっ」と声を上げた。

「ねぇねぇ聞いて、メイナーダさん」
「あらあら何かしら？」
「ルキアスが『捏ね』てくれた棒で魔物を切れたんですよ！」
「え!?」
「あら、まあ、ほんとに？」

　驚いたのはルキアス。メイナーダには然程驚いた様子が無い。

「ほんと、ほんと」
「へぇ、いいわね。……そうだ。ルキアスちゃんに包丁を作って貰おうかしら」

　メイナーダはポンと手を合わせた。