554 / 627
554 かき氷
しおりを挟む
「あの、どうかしました?」
ルキアスが頭を抱えてしゃがみ込んでいる店主らしき女性に声を掛けると、鉢巻き姿でシャツを腕捲りしたその女性は顔を上げて喫驚をその顔一杯に表現した。
「お……、お客さんですか?」
「はい。そのつもりだったんですけど……」
「す、すいません。氷がその……、無くてですね……」
話を聞けば、氷を保管していた魔道具の魔石が切れているのに気付かずにいたらしい。
しかしかき氷が食べられそうにないと判ると、ユアがどことなくしょんぼりした様子を見せる。感情が殆ど表情に出ないユアだが、ルキアスには何故かそれが判った。
となれば何とかしてやりたくなりもする。
「あの、氷があれば、かき氷を作って貰えますか?」
「え? え、ええ! 勿論氷があれば作りますよ。氷があればですけどね!」
彼女は自棄になったように答えた。「あるなら出してみろ」とでも言いたげな様子だ。
だがそれなら話は早い。
「氷を作ってもいい器があったら貸してください」
彼女は訝しそうにしながらも四角い鉄の容器をルキアスの目の前に置いた。
「これが氷の容器よ」
ルキアスは一つ頷いて魔法を唱える。
「『湧水』……、『冷却』」
ルキアスは『湧水』で水を張り、それを『冷却』して氷にした。
「何と! お兄さんは氷の魔法を使えるのですか!?」
目の前で氷が出来たのだから女性のテンションは爆上がりだ。
「こんなに速く透き通った完璧な氷を作れるなんてお兄さん、ただ者ではありませんね!?」
「え、いえ、その……」
彼女はルキアスの手を取った。
「お兄さん、アルバイトしませんか? 売上の半分をアルバイト代に出しますよ!」
氷が無ければかき氷屋は商売できず、収入はゼロになる。それなら売上収入が半分になってもゼロより良いと言う。
元の原価率が三割程度だから売上の半分を渡しても利益が出るとかどうとかの話に関してはルキアスにはピンと来なかった。
「えっと、じゃあ、まあ、お手伝いします」
見捨てたら後味が悪くなりそうに感じたルキアスは手伝いを承諾し、この日一日はずっと氷を作り続けた。
季節は既に夏。道行く人は皆、氷に心惹かれたようであった。
ルキアスが頭を抱えてしゃがみ込んでいる店主らしき女性に声を掛けると、鉢巻き姿でシャツを腕捲りしたその女性は顔を上げて喫驚をその顔一杯に表現した。
「お……、お客さんですか?」
「はい。そのつもりだったんですけど……」
「す、すいません。氷がその……、無くてですね……」
話を聞けば、氷を保管していた魔道具の魔石が切れているのに気付かずにいたらしい。
しかしかき氷が食べられそうにないと判ると、ユアがどことなくしょんぼりした様子を見せる。感情が殆ど表情に出ないユアだが、ルキアスには何故かそれが判った。
となれば何とかしてやりたくなりもする。
「あの、氷があれば、かき氷を作って貰えますか?」
「え? え、ええ! 勿論氷があれば作りますよ。氷があればですけどね!」
彼女は自棄になったように答えた。「あるなら出してみろ」とでも言いたげな様子だ。
だがそれなら話は早い。
「氷を作ってもいい器があったら貸してください」
彼女は訝しそうにしながらも四角い鉄の容器をルキアスの目の前に置いた。
「これが氷の容器よ」
ルキアスは一つ頷いて魔法を唱える。
「『湧水』……、『冷却』」
ルキアスは『湧水』で水を張り、それを『冷却』して氷にした。
「何と! お兄さんは氷の魔法を使えるのですか!?」
目の前で氷が出来たのだから女性のテンションは爆上がりだ。
「こんなに速く透き通った完璧な氷を作れるなんてお兄さん、ただ者ではありませんね!?」
「え、いえ、その……」
彼女はルキアスの手を取った。
「お兄さん、アルバイトしませんか? 売上の半分をアルバイト代に出しますよ!」
氷が無ければかき氷屋は商売できず、収入はゼロになる。それなら売上収入が半分になってもゼロより良いと言う。
元の原価率が三割程度だから売上の半分を渡しても利益が出るとかどうとかの話に関してはルキアスにはピンと来なかった。
「えっと、じゃあ、まあ、お手伝いします」
見捨てたら後味が悪くなりそうに感じたルキアスは手伝いを承諾し、この日一日はずっと氷を作り続けた。
季節は既に夏。道行く人は皆、氷に心惹かれたようであった。
2
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

忠犬ポチは、異世界でもお手伝いを頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
私はポチ。前世は豆柴の女の子。
前世でご主人様のりっちゃんを悪い大きな犬から守ったんだけど、その時に犬に噛まれて死んじゃったんだ。
でもとってもいい事をしたって言うから、神様が新しい世界で生まれ変わらせてくれるんだって。
新しい世界では、ポチは犬人間になっちゃって孤児院って所でみんなと一緒に暮らすんだけど、孤児院は将来の為にみんな色々なお手伝いをするんだって。
ポチ、色々な人のお手伝いをするのが大好きだから、頑張ってお手伝いをしてみんなの役に立つんだ。
りっちゃんに会えないのは寂しいけど、頑張って新しい世界でご主人様を見つけるよ。
……でも、いつかはりっちゃんに会いたいなあ。
※カクヨム様、アルファポリス様にも投稿しています

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる