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510 陰
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突発的な津波からの難から逃れ、職人達は津波の届かない場所まで避難した。津波としての規模は小さなものだったからか、宿舎はびくともせず、ヌワジの小屋にも損傷は無い。津波がこれ以上来ない確証さえあれば直ぐに元通りになる筈だ。
ただ宿舎の地下室だけは明らかに浸水被害から逃れられていない。
「建てたばかりだってのに」
ドーズは新築から何日も経たない内に汚れてしまったのが不満なようだ。
「災難じゃったな」
「爺さんか。しかし爺さんの逃げ足にはびっくりしたぞ」
ナンソラはドーズとほぼ同時に走り出したらしい。
「こんな田舎では足腰がしっかりしておらねばやっていけんよってな」
「それで片付く脚には思えなかったがな」
ドーズは肩を竦めた。
「それじゃ、ぼくは様子を見に行って来ます」
一段落したところで、ルキアスは今度こそダンジョンへと向かった。
上空から見れば、怪魚が跳んだだろう水面が泥の色に染まっている以外、変化らしいものが無い。ダンジョン周辺もだ。魔物の姿は全く見当たらない。
(あの魚が魔物を全部食べた?)
最も楽観的な考えがまず浮かんだ。あの怪魚一匹で全ての魔物を捕食したのなら怪魚は他には居ない。怪魚同士で最後の一匹になるまで共食いした場合でも同様だ。
(……そんなに都合良くないかな)
同様の怪魚が複数たゆたっていると見るのが自然だろう。
ルキアスは魚影を探してみた。しかし水が濁りや光の反射ではっきりしない。水深も想像以上に深いのだろう。巨大な怪魚が泳げるだけのものがあるのだから。
不意に水の陰が揺らめいたように見えた。ルキアスの背筋に悪寒が奔る。
ルキアスはその感覚に逆らわず、『傘』を急上昇させる。
それを追い掛けるように大きな水音が轟いた。
「げっ!」
水音に引っ張られるように下に向けた目には迫り来る巨大な口が映る。怪魚の口で陽の光が遮られて陰る『傘』。
ルキアスは更に速度を上げた。
怪魚の口が閉じられる。その中の巨大で鋭い歯が煌めいた。
ガチンと歯のぶつかる音が衝撃波のように突き抜ける。
「あっぶなーっ!」
ルキアスは間一髪難を逃れた。
そしてまた激しい水音が響く。大きな波が広がって行く。
ルキアスは激しい鼓動を抑えながらその行方を見守った。
「あんなのが出るんじゃほんとに工事なんてできないよ」
退治が必要だが今のルキアスには無理だ。溜め息を吐きつつダンジョン前へと降りて行く。
そこにちょうどザネクがダンジョンから出て来たのだが、その全身は何故か泥塗れであった。
ただ宿舎の地下室だけは明らかに浸水被害から逃れられていない。
「建てたばかりだってのに」
ドーズは新築から何日も経たない内に汚れてしまったのが不満なようだ。
「災難じゃったな」
「爺さんか。しかし爺さんの逃げ足にはびっくりしたぞ」
ナンソラはドーズとほぼ同時に走り出したらしい。
「こんな田舎では足腰がしっかりしておらねばやっていけんよってな」
「それで片付く脚には思えなかったがな」
ドーズは肩を竦めた。
「それじゃ、ぼくは様子を見に行って来ます」
一段落したところで、ルキアスは今度こそダンジョンへと向かった。
上空から見れば、怪魚が跳んだだろう水面が泥の色に染まっている以外、変化らしいものが無い。ダンジョン周辺もだ。魔物の姿は全く見当たらない。
(あの魚が魔物を全部食べた?)
最も楽観的な考えがまず浮かんだ。あの怪魚一匹で全ての魔物を捕食したのなら怪魚は他には居ない。怪魚同士で最後の一匹になるまで共食いした場合でも同様だ。
(……そんなに都合良くないかな)
同様の怪魚が複数たゆたっていると見るのが自然だろう。
ルキアスは魚影を探してみた。しかし水が濁りや光の反射ではっきりしない。水深も想像以上に深いのだろう。巨大な怪魚が泳げるだけのものがあるのだから。
不意に水の陰が揺らめいたように見えた。ルキアスの背筋に悪寒が奔る。
ルキアスはその感覚に逆らわず、『傘』を急上昇させる。
それを追い掛けるように大きな水音が轟いた。
「げっ!」
水音に引っ張られるように下に向けた目には迫り来る巨大な口が映る。怪魚の口で陽の光が遮られて陰る『傘』。
ルキアスは更に速度を上げた。
怪魚の口が閉じられる。その中の巨大で鋭い歯が煌めいた。
ガチンと歯のぶつかる音が衝撃波のように突き抜ける。
「あっぶなーっ!」
ルキアスは間一髪難を逃れた。
そしてまた激しい水音が響く。大きな波が広がって行く。
ルキアスは激しい鼓動を抑えながらその行方を見守った。
「あんなのが出るんじゃほんとに工事なんてできないよ」
退治が必要だが今のルキアスには無理だ。溜め息を吐きつつダンジョン前へと降りて行く。
そこにちょうどザネクがダンジョンから出て来たのだが、その全身は何故か泥塗れであった。
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