生活魔法は万能です

浜柔

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 ルキアスとザネクが作業する間、ドーズは魔物の観察や砲台の見物で時間を潰していた。

「しかしこりゃ大変なダンジョンだ。よく見付けたな?」
「それは……」
「運が良かったってことだ!」

 ルキアスが答えようとするとタイラクが割り込んだ。無言で目配せして入口を指し示す。
 ルキアスはその意図が判らなかったのでただ黙ったが、ドーズには判ったらしい。

「そうか。運か。運は大事だな」
「作業と見物も終わったことだし、帰るとしようじゃないか」

 フヨヨンは少し大きめの声で言った後、皆に向けて人差し指を口に当てて見せた。
 その指示通りにルキアスが黙って聞き耳を立てると、入口の向こうでパタパタとした足音が遠ざかるのが微かに聞こえた。砲台の稼働音などに紛れて本当に微かなものだ。
 だが、確実に誰かがそこに居た。

「行かせていいんですか?」
「捕まえてどうするつもりだい?」
「それは……」

 ルキアスは考えても何も思い付かなかった。賠償を求められるかと言えばそうでもない。放置したままだから砲塔で倒した証明ができないのだ。証明できなければ司法に訴え出ても門前払いだろう。それでも尚と考えるなら腕力頼みとなり、お尋ね者一直線になる。

「……どうにもできませんね」
「だから会わないのが一番なのさ」

 会えば黙って擦れ違うことはできないだろう。諍いの元だ。会わなければ角を突き合わせる事態にならない。
 ともあれフヨヨンの「帰る」の言葉は出任せではない。ただ直ぐに動いては潜んでいた誰かと鉢合わせしかねないので、その誰かがどこかに隠れるなりをする時間を待つ。

「さてルキアス君。帰る時は一旦南東に飛んでくれたまえよ。十中八九どこかに潜んで見ているから、攪乱して滞在場所を悟られないようにしようじゃないか」

 湿地林の向こう、ダンジョン前からでは見られない場所まで行ったら回り込んでダブラへ帰ると言うことだ。
 外に出て『傘』に乗って飛び立つ。進路を南東に取ると、ダンジョンの入口の裏手に誰かが隠れているのが見えた。その誰かは『傘』が見えるなりまた物陰に隠れた。

「こそこそされるのは気にいらねぇな」

 タイラクは怫然と言った。

「そうだねぇ。いっそ砲塔のメンテナンスを止めてしまおう」

 こそこそしている誰かの利益のために、わざわざ砲塔の魔石を補充することはない。

「止めて大丈夫なのか?」

 ザネクは魔物がまた溢れないかを心配しているようだ。

「見付ける前は大丈夫だったのだから、きっと大丈夫さ」

 根拠があるとは言い難いフヨヨンの意見だが、何となく説得力を感じさせたので採用された。
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