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492 北北東
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「ダンジョンの魔物は人を食らわねぇから一応残っちゃいる。これを幸運と思ってくれや」
タイラクはツアゾに言った。
「そう……、考えるべきなのだろうな」
ツアゾは渋面で答えた。遠くの物陰から覗いている町人達を横目で見ながらだから、どう説得したものか考えているのだろう。
「そんじゃ俺らはもう行くぜ」
「ああ。町のもんが迷惑掛けた」
タイラクは軽く手を振って応えた。ダンジョンを荒らされて余計な作業を増やされたばかりか、捜索の報酬も踏み倒された形だから迷惑に違いない。
「ルキアス頼むぜ」
ルキアスが『傘』を差し、全員で乗り込んで出発した。自分の『傘』では差し直しても遺体と一緒の気分になるからと、ザネクもルキアスの『傘』に乗っている。
「どこに行きます?」
「確かダンジョンの北の方にも町が在ったよな? 日ももう直ぐ暮れるし、そこでいいだろ」
「了解です」
ルキアスは進路を北北東に取った。
(やっぱりぼくはリーダーじゃないよね)
ルキアスはタイラクの指示通りに動く現状に、ますますロマの言葉を疑問に思った。
ダンジョンから北に最寄りの町はラナファーベまでの概ね五割増しの距離に在る。真っ直ぐ直線で歩くなら一時間半足らずだ。ルキアスが『傘』で飛べば、急がなくても一五分程度の飛行時間にしかならない。
ただ、ここでも飛ぶのを見られないよう少し離れた場所に降りるので、一〇分程度の歩く時間が余分に掛かる。
そうしてやって来た町、いや村はこじんまりしていた。
「おや、あんたらはどこから来なすった?」
たまたま通り掛かった年寄りが声を掛けて来た。見るからに農民だ。
「ベクロテからだ」
タイラクが答えた。ラナファーベは腰掛けでしかなかったから勘定に入れない。
「ベクロテってーと、ダンジョンの町かい? するとあんたらは探索者なのかい?」
「そうだ。宿を探してるんだが……、在るか?」
「こんな田舎だ。生憎だけど無いね。一晩だけで納屋で良ければ家に泊まって行きゃあいいさ」
「いや、長くなる予定だから、長く泊まれる所じゃなくちゃな」
「長くねぇ……」
年寄りは考え込んだ。
するとまた別の年寄りが通り掛かった。
「おんやナンソラ爺、そん人らどうしたね?」
「タズワン爺かい。こん人らは何やら長居するらしくてな。長く泊まれる家を探しとんじゃと」
「長くねぇ……」
タズワンは考え込んだ。そして暫くしてポンと手を叩く。
「あれが在るじゃないか。ヌワジの居った小屋が」
「おー、あれかぁ。そうじゃな。あんたら少し狭くていいなら無いこともないよ」
ナンソラはタズワンに相槌を入れた後、タイラクに向けて言った。
タイラクはメンバーを見回すが、誰も判断できないと顔に書いている。
「物を見てみねぇことには判らんな」
タイラクはツアゾに言った。
「そう……、考えるべきなのだろうな」
ツアゾは渋面で答えた。遠くの物陰から覗いている町人達を横目で見ながらだから、どう説得したものか考えているのだろう。
「そんじゃ俺らはもう行くぜ」
「ああ。町のもんが迷惑掛けた」
タイラクは軽く手を振って応えた。ダンジョンを荒らされて余計な作業を増やされたばかりか、捜索の報酬も踏み倒された形だから迷惑に違いない。
「ルキアス頼むぜ」
ルキアスが『傘』を差し、全員で乗り込んで出発した。自分の『傘』では差し直しても遺体と一緒の気分になるからと、ザネクもルキアスの『傘』に乗っている。
「どこに行きます?」
「確かダンジョンの北の方にも町が在ったよな? 日ももう直ぐ暮れるし、そこでいいだろ」
「了解です」
ルキアスは進路を北北東に取った。
(やっぱりぼくはリーダーじゃないよね)
ルキアスはタイラクの指示通りに動く現状に、ますますロマの言葉を疑問に思った。
ダンジョンから北に最寄りの町はラナファーベまでの概ね五割増しの距離に在る。真っ直ぐ直線で歩くなら一時間半足らずだ。ルキアスが『傘』で飛べば、急がなくても一五分程度の飛行時間にしかならない。
ただ、ここでも飛ぶのを見られないよう少し離れた場所に降りるので、一〇分程度の歩く時間が余分に掛かる。
そうしてやって来た町、いや村はこじんまりしていた。
「おや、あんたらはどこから来なすった?」
たまたま通り掛かった年寄りが声を掛けて来た。見るからに農民だ。
「ベクロテからだ」
タイラクが答えた。ラナファーベは腰掛けでしかなかったから勘定に入れない。
「ベクロテってーと、ダンジョンの町かい? するとあんたらは探索者なのかい?」
「そうだ。宿を探してるんだが……、在るか?」
「こんな田舎だ。生憎だけど無いね。一晩だけで納屋で良ければ家に泊まって行きゃあいいさ」
「いや、長くなる予定だから、長く泊まれる所じゃなくちゃな」
「長くねぇ……」
年寄りは考え込んだ。
するとまた別の年寄りが通り掛かった。
「おんやナンソラ爺、そん人らどうしたね?」
「タズワン爺かい。こん人らは何やら長居するらしくてな。長く泊まれる家を探しとんじゃと」
「長くねぇ……」
タズワンは考え込んだ。そして暫くしてポンと手を叩く。
「あれが在るじゃないか。ヌワジの居った小屋が」
「おー、あれかぁ。そうじゃな。あんたら少し狭くていいなら無いこともないよ」
ナンソラはタズワンに相槌を入れた後、タイラクに向けて言った。
タイラクはメンバーを見回すが、誰も判断できないと顔に書いている。
「物を見てみねぇことには判らんな」
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