生活魔法は万能です

浜柔

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484 探索者は

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「ところで町はダンジョンのことをどう考えてるんだ?」

 宿の主ツアゾが町に話を通すと言っていた割に、町からのリアクションが何も無いのがタイラクには疑問だった。

「町長がどう考えてるかは判らんが、町の人間だけで調査もできんだろ。ベクロテから探索者を呼び寄せるんじゃないか? 往復になるなら一ヶ月や二ヶ月平気で掛かる距離だ」

 街道が直線で通っている訳ではないのでバスでも二週間近く掛かる。無論直通のバスなど無く、バスの通っていない区間も在るので実際にはもっと日数が必要だ。
 そうしてまでわざわざ余所から探索者を呼び寄せるのは、発見者たるルキアス一行の調査では検証にならないからである。

「一ヶ月や二ヶ月か……」

 魔石の買取が可能になる目安に重なる。

「まだ先だな。ありがとうよ。今の内にのんびりしとくぜ」

 その時期が来たら忙しくなりそうな予感のタイラクだ。
 不意に宿の玄関が乱暴に開けられた。

「ここに探索者が泊まってるって聞いたんだが、今はどこに居る?」

 入って来たのは清潔感だけはある何の変哲もない中年男。

「居たらどうした?」

 答えたのはタイラクだ。

「あんたが探索者か? 頼みがある」
「……」
「……報酬は払う」
「頼みの内容は?」
「内の馬鹿息子が店をほっぽり出して帰って来ない。捜して連れ帰って欲しい」
「それは警察の仕事だ」
「それがそうも行かない。どうやら行った先が湿地らしい」
「どう言う理屈だ?」
「あんたらも見ただろ? 湿地には獰猛な魚が居るから警察だって行かないんだ」

 説明したのはツアゾだった。

「あの魚か。ああ、確かに見た。鹿があっと言う間に食われちまってたな。しかしそんな危ない場所に行ったとどうして判った?」
「息子の名はマールって言うんだが、いつも連んでいるサンカとバッツと一緒に湿地の方に行ったのを見た人が居た」
「別に湿地まで行ったと限らんだろ」
「あんたら湿地まで行ってるんだろ? そのあんたらの仲間が町に戻るのを確かめるようにしてから湿地の方に行ったって話だ」
「そいつはゾッとする話だな。メイナーダはどう見る?」
「わたし達で見に行った方が良さそうではあるわね」

 タイラクは頷いた。

「捜すのが三人なら三〇万ダールだ。見付からなくても半額は貰う」
「三〇万!? そんなにか!?」
「これでも格安にしてるんだぜ? 嫌なら他を当たってくれや」
「……わ、判った」
「そんじゃみんなを集めて直ぐに出掛けるとしよう」

 メイナーダが数分で皆を集めて来た。

「人捜しだって?」
「もしかして?」
「ああ、そのもしかかも知れねぇ」

 皆まで言わずとも、ダンジョンが捜索対象だと皆が感じている。
 タイラクを先頭に、ルキアス、ザネク、シャルウィ、メイナーダとユア、フヨヨンは出発した。
 しかし町中を歩いている最中に東の方から叫び声が聞こえた。

「魔物だ! 魔物が出た!」
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