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483 悲鳴
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「うわあああ!」
その叫び声を聞いて振り返る二人。二本足で歩くトカゲの魔物が仲間へと爪を振り下ろす場面を目撃した。
「「バッツ!」」
二人は彼の名を叫んだ。その思いが通じたか、魔物の爪は彼に届かない。直前に砲台からの『火魔法』が魔物に着弾したからだ。
だがバッツが助かった訳ではない。
「ぐあああっ!」
悲鳴。魔物から逃げようとしたバッツの背中は『火魔法』の余波を受けて焼け焦げていた。
「「バッツ!」」
返事は無い。バッツは気を失っているか、意識があっても返事をする余裕が無いかだろう。
そのバッツへ更に魔物が迫る。砲台からはその魔物を目掛けて『火魔法』が飛ぶ。このままではまたバッツが魔法に巻き込まれてしまう。だが魔法が飛んでいてはバッツを助けに行けない。
「魔法を止めろーっ!」
一人が砲台に向かって体当たりした。彼には止め方が判らない。いや、判っていてもその手順を惜しんだことだろう。彼は魔物が見えても意識に入らない程、バッツを傷付けた砲台の魔法を止めることで頭が一杯になっていた。
砲台は横倒しにされた。このせいで射線が限定され、魔法がバッツへと向かわない。そして横倒しになったために魔石の再装填の機構が不調を来し、動作そのものが止まった。
彼は喜んだ。だがそれがぬか喜びだったのはもう一人の仲間の叫びを聞いてからだった。
「バッツ!」
叫び声に促されるようにバッツを見れば、既に魔物に蹂躙されて原形すら留めていなかった。
そして砲台で迎撃されなくなった魔物が彼へと迫る。
「ぎゃああああ!」
彼は漸く自分が何をしたかを悟った。魔物を止めていた砲台を止めればどうなるか。自分達が魔物に襲われるのだ。
「マール! 逃げるぞ!」
もう一人の仲間が声を掛けながら駆け寄って、マールの手を引いて立ち上がらせる。
だが既に魔物は間近に迫っていた。
「ぎゃっ!」
マールは魔物の爪に切り裂かれ、倒れ臥す。
「サ……サンカ……」
息も絶え絶えに仲間を名を呼ぶマール。だが更にもう一体の魔物が迫って来るのを見て、サンカは逃げ出した。
「くそ! くそ! どうしてこうなった!?」
後先考えずにダンジョンに入ったからだが、そのせいだとは考えない。
サンカは第一階層を飛び出し、回廊を駆け上がる。ダンジョンを出ても安心できない。町へと急ぐ。
しかし焦るあまりに足下が疎かになっていた。水場で足を滑らせて水面を踏む。
「うわっ!」
水音と悲鳴が重なった。ルキアス達が渡した簡易な木橋を必死に掴み、どうにか完全な転落を免れる。
だがこの水の中は危険だ。獰猛な魚が棲息している。これのせいで町の人々さえ湿地に近付かないのだから。
「ぃだあっ!?」
サンカの足に激痛が奔った。そしてあっと言う間に水に引き摺り込まれた。
水面には真っ赤な血の色以外は何も浮かばなかった。
その叫び声を聞いて振り返る二人。二本足で歩くトカゲの魔物が仲間へと爪を振り下ろす場面を目撃した。
「「バッツ!」」
二人は彼の名を叫んだ。その思いが通じたか、魔物の爪は彼に届かない。直前に砲台からの『火魔法』が魔物に着弾したからだ。
だがバッツが助かった訳ではない。
「ぐあああっ!」
悲鳴。魔物から逃げようとしたバッツの背中は『火魔法』の余波を受けて焼け焦げていた。
「「バッツ!」」
返事は無い。バッツは気を失っているか、意識があっても返事をする余裕が無いかだろう。
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砲台は横倒しにされた。このせいで射線が限定され、魔法がバッツへと向かわない。そして横倒しになったために魔石の再装填の機構が不調を来し、動作そのものが止まった。
彼は喜んだ。だがそれがぬか喜びだったのはもう一人の仲間の叫びを聞いてからだった。
「バッツ!」
叫び声に促されるようにバッツを見れば、既に魔物に蹂躙されて原形すら留めていなかった。
そして砲台で迎撃されなくなった魔物が彼へと迫る。
「ぎゃああああ!」
彼は漸く自分が何をしたかを悟った。魔物を止めていた砲台を止めればどうなるか。自分達が魔物に襲われるのだ。
「マール! 逃げるぞ!」
もう一人の仲間が声を掛けながら駆け寄って、マールの手を引いて立ち上がらせる。
だが既に魔物は間近に迫っていた。
「ぎゃっ!」
マールは魔物の爪に切り裂かれ、倒れ臥す。
「サ……サンカ……」
息も絶え絶えに仲間を名を呼ぶマール。だが更にもう一体の魔物が迫って来るのを見て、サンカは逃げ出した。
「くそ! くそ! どうしてこうなった!?」
後先考えずにダンジョンに入ったからだが、そのせいだとは考えない。
サンカは第一階層を飛び出し、回廊を駆け上がる。ダンジョンを出ても安心できない。町へと急ぐ。
しかし焦るあまりに足下が疎かになっていた。水場で足を滑らせて水面を踏む。
「うわっ!」
水音と悲鳴が重なった。ルキアス達が渡した簡易な木橋を必死に掴み、どうにか完全な転落を免れる。
だがこの水の中は危険だ。獰猛な魚が棲息している。これのせいで町の人々さえ湿地に近付かないのだから。
「ぃだあっ!?」
サンカの足に激痛が奔った。そしてあっと言う間に水に引き摺り込まれた。
水面には真っ赤な血の色以外は何も浮かばなかった。
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