456 / 627
456 最寄りの町
しおりを挟む
宿を探すにしても闇雲に歩き回るのは草臥れ儲けだ。
「なあ、ちょっと聞きたいんだが、宿屋がどこに在るか知らないか?」
タイラクが通り掛かった人に尋ねるが、その人はタイラクの容貌に一瞬ビクッとなっただけで目を吊り上げた。
「知らないよ! こっちは忙しいんだ! 話し掛けないでくれ!」
そう捲し立てると走り去った。
タイラクは皆の方を見ながら肩を竦めた。
そしてまた別の人に尋ねてみるが、反応は似たようなものだった。
「自力で探すしかねぇな」
タイラクが諦めたように呟き、皆も同意する。
それから宿屋らしき看板を見付けるまでには一時間余りを必要とした。
「邪魔するぞ」
タイラクが声を掛けながらドアを開ける。
中を見れば、右側にカウンターが在り、左側にはテーブルが並べられている。少なくとも飲食店ではあるようだ。カウンターの中では店の人が忙しげに動き回っている。
「なあ、ここは宿屋だろ? 泊まりたいんだが、いいか?」
タイラクが声を掛けると彼は立ち止まってギョロッと睨んで来る。手入れの行き届いた横に伸びる口髭が印象的だ。
「確かに宿屋だが今日はやっていない。判ったらさっさと出て行ってくれ」
「……だったら他の宿を紹介してくれないか? 在るか無いかも判らないもんをこれ以上探し回るのは勘弁だぜ」
「教えたところでどこもやってないだろうさ」
「何故だ?」
「何故も何もあんたら東で起こった火柱の話を聞いてないのか? 天変地異の前触れだって専らの噂だぞ? こうしてる間に天変地異が起きたらどうしてくれるんだ? あ?」
「起きないわよ」
メイナーダがタイラクの後から口を挟んだ。
「だってその火柱はわたし達がやった事なんだから」
ルキアスはギョッとしたが、表情に出すのをどうにか堪えた。
「どう言う事だ?」
口髭男の声が低くなり、凄みを含む。
「そう言う使い捨ての魔道具を使ったの」
「魔道具だと? 魔道具だと言うならその魔道具見せてみろ」
「使い捨てって言ったでしょ。もう残ってないわ」
「……だったらどうしてそんな貴重なものを使った?」
「わたし達の恰好を見て判らない? わたし達は探索者。ダンジョンを探してためよ」
「この近くにダンジョンなんぞは無い」
「在るわよ。見付けたの。見付けるために湿地の森の一部を焼き払ったのが火柱よ」
ルキアスは内心で頷いた。火柱の理由を隠したままでは埒が明かないが、魔法で焼き払ったと言えば警戒され、場合によってはこの町を拠点にできなくなってしまう。メイナーダがベクロテに居づらくなったのは魔法の威力が原因の一つなのだから、あまり大っぴらにはしたくないところだ。しかし火柱の原因を魔道具にしてしまえばそんな心配も要らない。
だが口髭男は胡散臭げにメイナーダを見るだけだ。
「何なら案内するわよ? あなたの目で見れば信じられるんじゃない? この町はダンジョンの最寄りだから、ダンジョンが在ると知られれば宿が繁盛するわよ?」
口髭男は黙ってメイナーダを睨み続ける。そして……。
「……判った。泊めてやろう。だから言葉通りにダンジョンに案内しろよ?」
ルキアス達はどうにか宿を確保できた。
「なあ、ちょっと聞きたいんだが、宿屋がどこに在るか知らないか?」
タイラクが通り掛かった人に尋ねるが、その人はタイラクの容貌に一瞬ビクッとなっただけで目を吊り上げた。
「知らないよ! こっちは忙しいんだ! 話し掛けないでくれ!」
そう捲し立てると走り去った。
タイラクは皆の方を見ながら肩を竦めた。
そしてまた別の人に尋ねてみるが、反応は似たようなものだった。
「自力で探すしかねぇな」
タイラクが諦めたように呟き、皆も同意する。
それから宿屋らしき看板を見付けるまでには一時間余りを必要とした。
「邪魔するぞ」
タイラクが声を掛けながらドアを開ける。
中を見れば、右側にカウンターが在り、左側にはテーブルが並べられている。少なくとも飲食店ではあるようだ。カウンターの中では店の人が忙しげに動き回っている。
「なあ、ここは宿屋だろ? 泊まりたいんだが、いいか?」
タイラクが声を掛けると彼は立ち止まってギョロッと睨んで来る。手入れの行き届いた横に伸びる口髭が印象的だ。
「確かに宿屋だが今日はやっていない。判ったらさっさと出て行ってくれ」
「……だったら他の宿を紹介してくれないか? 在るか無いかも判らないもんをこれ以上探し回るのは勘弁だぜ」
「教えたところでどこもやってないだろうさ」
「何故だ?」
「何故も何もあんたら東で起こった火柱の話を聞いてないのか? 天変地異の前触れだって専らの噂だぞ? こうしてる間に天変地異が起きたらどうしてくれるんだ? あ?」
「起きないわよ」
メイナーダがタイラクの後から口を挟んだ。
「だってその火柱はわたし達がやった事なんだから」
ルキアスはギョッとしたが、表情に出すのをどうにか堪えた。
「どう言う事だ?」
口髭男の声が低くなり、凄みを含む。
「そう言う使い捨ての魔道具を使ったの」
「魔道具だと? 魔道具だと言うならその魔道具見せてみろ」
「使い捨てって言ったでしょ。もう残ってないわ」
「……だったらどうしてそんな貴重なものを使った?」
「わたし達の恰好を見て判らない? わたし達は探索者。ダンジョンを探してためよ」
「この近くにダンジョンなんぞは無い」
「在るわよ。見付けたの。見付けるために湿地の森の一部を焼き払ったのが火柱よ」
ルキアスは内心で頷いた。火柱の理由を隠したままでは埒が明かないが、魔法で焼き払ったと言えば警戒され、場合によってはこの町を拠点にできなくなってしまう。メイナーダがベクロテに居づらくなったのは魔法の威力が原因の一つなのだから、あまり大っぴらにはしたくないところだ。しかし火柱の原因を魔道具にしてしまえばそんな心配も要らない。
だが口髭男は胡散臭げにメイナーダを見るだけだ。
「何なら案内するわよ? あなたの目で見れば信じられるんじゃない? この町はダンジョンの最寄りだから、ダンジョンが在ると知られれば宿が繁盛するわよ?」
口髭男は黙ってメイナーダを睨み続ける。そして……。
「……判った。泊めてやろう。だから言葉通りにダンジョンに案内しろよ?」
ルキアス達はどうにか宿を確保できた。
1
お気に入りに追加
823
あなたにおすすめの小説
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる