生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
455 / 627

455 岩山

しおりを挟む
 火柱が消えても暫くは近寄れない。上を飛ぶにも熱気が渦巻いていて高度を上げなければ難しそうだ。
 だが森が完全に焼き払われたことで見晴らしが利く。

「おい、あそこに突き出してるのがそうじゃねぇか?」

 タイラクが指差す方に皆が目を向ける。
 ベクロテのダンジョンの入口の岩山を背側から見たような光景がそこには在った。

「こっちからじゃはっきりしないから回り込んでくれ」
「はい」

 ルキアスは火柱が立っていた範囲を避けて『傘』を回り込ませる。

「こりゃ決まりだな」
「そうね。あれはダンジョンだわ」

 回り込んでみれば岩山にぽっかり洞窟が口を開けている。向きは北東。大陸の中央を向いている。そしてその洞窟の奥が仄かに明るい。昼日中の今は周りが明るくてはっきりとは行かないが、洞窟内が輪郭程度であれ浮き上がって見える。これが単なる洞窟であれば中は真っ暗で何も見えない筈だ。

「ルキアスに付いて来て正解だったぜ」
「あらあら、タイラクったらにやけちゃって」
「楽しい探索が待ってるんだ。これが喜ばずに居られるかって。正直な話、ベクロテのダンジョンはまるで変化が無くて退屈になってたからな」
「そうね……、以前わたしが居た頃と全く変わりが無かったわね」
「だろ? んじゃ早速……って訳にも行かねぇか」
「タイラクに理性が残ってて助かるわ。今日は先に宿を決めましょう。その後は拠点探しね。探索をするのはその後」
「おいおい、暫くお預けかよ?」
「それはそうよ。もしかすると六人がずっと暮らすことになるんだから」

 『ダンジョンダウジング』の反応がここである以上、少なくともルキアスは滞在する。そしてダンジョンとは関係無くルキアスに付いて来たメイナーダとユアもだ。

「……確かにな」
「タイラクが理解してくれたところで西に見えた町に行きましょう。あそこが一番近そうだったから」
「了解です」

 ルキアスは『傘』を飛ばし、町から少し離れた場所に下りる。直接乗り込んでは驚かせて騒ぎになりかねないからだ。
 そこから歩いて町へと向かうのだが、何やら町が騒がしい。少し足を速め町まで行くと、人々が右往左往慌てている。

「おい、何か起きたのか?」

 タイラクが通り掛かった男を掴まえた。彼はタイラクの風采にギョッとするが、どうやらそれに勝る恐怖があるらしい。

「あんたら見なかったのか? 東に火柱が立ったんだぞ? ありゃきっと天変地異の前触れだ。あっ、と、こうしちゃ居られない。早く逃げる準備をしなきゃ」

 彼はタイラクの手を振り払うように走り去った。

「東の火柱……」
「ほら! 大丈夫じゃなかったじゃない!」

 シャルウィがキャンキャン吠えるが皆苦笑いするだけである。今更火柱が起きなかったことにはできない。

「まあ、先に宿をさがしましょうよ」

 このルキアスの提案に反論は無かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...