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432 工具
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フヨヨンから工具の使い方を仕込まれ始めてから五日、ルキアスは設計図の描き方を、旋盤やボール盤も含めた工具の使い方を一通り習い終えた。
「最低限だね。今後とも精進したまえよ」
「あはは……」
フヨヨンの苦言にルキアスは力無く笑った。金欠だったので工具を買おうにも買えず、買おうと思えば買えるようになった時には蒸気銃は隠居状態になっていたしで、使い方を憶えても今更であった。
「言っておくけど工具は揃えないといけないよ? 何なら自作してもいいね」
「え……」
ルキアスは解放されたと思った矢先に宿題を出されてびっくりした。空気銃さえ出来てしまえばもう何かを工作する予定は無い。だから工具を持つ必要も無いと思えるのだ。
「何を驚いてるんだい? さては工具を揃えないつもりだね?」
「えっと……」
ルキアスは冷や汗を掻きながら目を逸らす。
フヨヨンの目が据わった。
「それなら今からお得意の『捏ね』でも使って工具を作ろうじゃないか」
「ええ!?」
「さあさあ直ぐに始めるよ!」
「えええっ!?」
ルキアスは時として表情を隠さなければならないことを学んだ。
「最初に切削工具を作ろうじゃないか。旋盤に使うバイトなんてどうだい? バイトでタップを切り、そのタップでダイスを切ればボルトとナットが作れるようになるからね」
バイトとは切削工具である。
「は、はあ……」
「折角だからアダマントの刃にしようじゃないか」
フヨヨンが鼻息も荒くルキアスに迫る。
「判りました……」
断るに断れないルキアスだった。
ルキアスが工具を作るのだから、手順は『捏ね』ての成型だ。しかし形を一から作るのも時間の無駄のため、フヨヨンが使っているバイトの型を鉄を『捏ね』て取った。その型にアダマントを『捏ね』ながら押し込んで全体の形を作るのだ。その後、アダマント粉を刃に練り込んだグラインダーで全体を成型し、表面を『均し』てからグラインダーで刃を立てる。
アダマント粉を使ったヤスリでも成型できなくはないが、あまりに迂遠な作業のため、ここはフヨヨンのグラインダーを使った。
「取り敢えずバイトが出来たね」
「かなり疲れました」
アダマントを『捏ね』るにはまだまだ骨が折れるのだ。
「どんな出来になったか見せてくれたまえよ」
「はい」
フヨヨンはルキアスから手渡されたバイトを型を取ったバイトと重ね合わせたりしながら検分する。
「……」
フヨヨンは何やら考え込んだ。
「……後一〇個くらい作って貰えないかな?」
「え……?」
ちょっとだけ視線を逸らしながらフヨヨンが説明するには、アダマントの切削工具は喉から手が出そうなくらい欲しいのだと言う。
ルキアスは断れなかった。
「最低限だね。今後とも精進したまえよ」
「あはは……」
フヨヨンの苦言にルキアスは力無く笑った。金欠だったので工具を買おうにも買えず、買おうと思えば買えるようになった時には蒸気銃は隠居状態になっていたしで、使い方を憶えても今更であった。
「言っておくけど工具は揃えないといけないよ? 何なら自作してもいいね」
「え……」
ルキアスは解放されたと思った矢先に宿題を出されてびっくりした。空気銃さえ出来てしまえばもう何かを工作する予定は無い。だから工具を持つ必要も無いと思えるのだ。
「何を驚いてるんだい? さては工具を揃えないつもりだね?」
「えっと……」
ルキアスは冷や汗を掻きながら目を逸らす。
フヨヨンの目が据わった。
「それなら今からお得意の『捏ね』でも使って工具を作ろうじゃないか」
「ええ!?」
「さあさあ直ぐに始めるよ!」
「えええっ!?」
ルキアスは時として表情を隠さなければならないことを学んだ。
「最初に切削工具を作ろうじゃないか。旋盤に使うバイトなんてどうだい? バイトでタップを切り、そのタップでダイスを切ればボルトとナットが作れるようになるからね」
バイトとは切削工具である。
「は、はあ……」
「折角だからアダマントの刃にしようじゃないか」
フヨヨンが鼻息も荒くルキアスに迫る。
「判りました……」
断るに断れないルキアスだった。
ルキアスが工具を作るのだから、手順は『捏ね』ての成型だ。しかし形を一から作るのも時間の無駄のため、フヨヨンが使っているバイトの型を鉄を『捏ね』て取った。その型にアダマントを『捏ね』ながら押し込んで全体の形を作るのだ。その後、アダマント粉を刃に練り込んだグラインダーで全体を成型し、表面を『均し』てからグラインダーで刃を立てる。
アダマント粉を使ったヤスリでも成型できなくはないが、あまりに迂遠な作業のため、ここはフヨヨンのグラインダーを使った。
「取り敢えずバイトが出来たね」
「かなり疲れました」
アダマントを『捏ね』るにはまだまだ骨が折れるのだ。
「どんな出来になったか見せてくれたまえよ」
「はい」
フヨヨンはルキアスから手渡されたバイトを型を取ったバイトと重ね合わせたりしながら検分する。
「……」
フヨヨンは何やら考え込んだ。
「……後一〇個くらい作って貰えないかな?」
「え……?」
ちょっとだけ視線を逸らしながらフヨヨンが説明するには、アダマントの切削工具は喉から手が出そうなくらい欲しいのだと言う。
ルキアスは断れなかった。
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