生活魔法は万能です

浜柔

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430 モックアップ

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 ルキアスはフヨヨンをその工房に訪ねた。
 工房はフヨヨンのものに限らず宿舎から離れた場所に纏まって建てられている。工房の主達には別途宿舎の部屋も割り当てられているが、工房に住み着いている者が多い。
 フヨヨンも住み着いている一人だろう。宿舎に帰らないだけかも知れないが、工房に居た。

「ルキアスはバネも満足に作れないのかい? そんなことじゃ、科学者の名が廃るよ!」

 ルキアスがコイルバネのことを持ち出すと、フヨヨンはルキアスを詰った。
 ルキアスにとっては不本意な言われ方である。

「ぼくは科学者じゃないし!」
「そうだったかい? そうだったかも知れないね。だったらルキアスには『捏ね師』の称号をあげようじゃないか」
「全然嬉しくない!」

 ルキアスはフヨヨンに抗議した。あたかもおべんちゃらばかりが上手そうに聞こえる称号は願い下げだった。

「気に入らないのかい? だったら『捏ね捏ね大王』だね」
「もっと酷い!」
「まあ、冗談はこれくらいにして……、丈夫なバネを作るには焼き鈍しと焼き入れが必要だから炉を持っていないと難しいのは確かだね。いいだろう。今回はボクが作ってあげるよ」
「……ありがとうございます」

 ルキアスは釈然としないながらも礼を言った。作って貰えることに安堵もあるのだ。そして具体的な直径や長さを伝えると、鋼材やアダマントを少し分けて貰ってフヨヨンの許を辞した。

 ついつい他力本願した後はモックアップの作成をする。行き当たりばったりではバランスの悪い出来になってしまう。設計図を描ければ良いが、ルキアスは描くのは疎か読めもしない。仮に読めても設計通りに加工するための工具を持っていないのだ。
 屑鉄を『捏ね』て大まかな形を作る。

(鉄が柔い……)

 リザード大将の肉やアダマントを『捏ね』る毎日で久しぶりの鉄だ。それをルキアスは奇妙なほど柔らかく感じた。
 しかしこれはこれで都合が良い。固めの粘土で造形するのに近い感覚で鉄を扱える。
 だがモックアップを作り始めて直ぐに難題にぶつかった。
 空気タンクは口に弁が付けられ、中が空でも弱いスプリングで閉じるようになっている。その弁にはピンが付いていてタンクの口から外に突き出ており、そのピンを押し込むことで弁を開く構造だ。満タン時は空気圧で弁が固く閉じるのでハンマーで叩くくらいでなければ動かない。
 弾丸の発射時にはそのピンをハンマーで叩いて弁を開け、タンク内に圧縮された空気を噴出させる。するとバネの力と空気圧とでまた弁が閉じて一定量の空気だけを出すことが可能となる。
 この時叩くハンマー太ければ噴出した空気の流れを阻害してしまうため、銃の性能を求めるならハンマーの太さはピンと一致させ、真っ直ぐ正確に叩かなければならない。
 ところがそうするには工作精度が求められる。ルキアスが自作した簡単な道具ではとてもそんな精度は出せなかった。
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