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420 安全地帯
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食べてびっくりしたシェフはルキアスが『捏ね』た肉だと聞いてまたびっくりした。
そして「俺も『捏ね』てみる」とタイラクが別途持っていた先生肉を『捏ね』ようと試みるが、何も起きなかった。
「俺も小麦粉なら二〇年以上毎日『捏ね』てたんだがなぁ。小麦粉だけ『捏ね』てたんじゃ足りなかったのか」
少し切なそうにぼやいた。
「だが話は理解した。腕によりを掛けて焼いてやるよ」
シェフは仕度を始めた。
一方、ルキアスには目先でする事が無くなった。もしも肉が足りなくなった時やデモンストレーションが必要な時にまた先生肉を『捏ね』て見せるくらいのものだ。暇になったので周囲の様子に目を向ける。
(……)
見渡しが利きやすそうな場所まで十数歩移動した。ロマとフヨヨンが付き添った。
部屋の広さは幅、奥行き、高さが全て第一〇階層ボス部屋の倍ほどもあり、かなり多くの人が行き交っている。ルキアス一人が紛れ込んでも誰も気に留めない様子だ。
「こんなに広いのに安全だなんてあるの?」
「安全地帯ってのはこの部屋の中じゃ魔物が涌かないってだけの話だよ。徘徊している魔物は普通に襲って来るよ」
「涌かないってだけでも不思議ですけど……」
「これだけ広いダンジョンなんだよ? これくらいのイレギュラーはあって当然さ。それでも先人達はここを見付けるまでに随分苦労したって話が残されてるよ。それも当然だね。この部屋で魔物が涌かないのを知るまでには何日も何十日もここに居続けなければならないんだからね。ルキアスが感じた通りの先入観もあっただろうにね」
「そうですよね……」
ルキアスに反論が思い付かなかった。
「あ、でも、先人てことは、ここって拠点になってから随分経つんですね」
改めて建物に目を向ければ、築二〇年は超えているだろう建物がそこかしこに見える。
「攻略は九三階の途中までで止まって久しいんだよ」
「何か進めない理由があるんですか?」
「単に魔物が強いだけだね。そのせいで停滞してるんだよ。突破するには何らかのイノベーションが必要だね」
話をしている間に肉を焼き始めたらしい。香ばしい匂いが流れて来る。
「これは堪らないね。戻るよ」
フヨヨンは匂いを嗅ぐように鼻を鳴らしてシェフが肉を焼く近くへと戻って行ってしまった。
ロマが肩を竦めてみせるが、肉が気になるのは同じらしい。
匂いに誘われるように他の人も集まって来る。
ルキアスとロマも戻り、肉を配る手伝いを始めた。そしてその途中のことだった。
「これは何の匂いかしら?」
「肉串の匂いです。お一つどうぞ」
後から聞こえた声に振り向いて肉串を差し出すと、相手がびっくりしたように目を見開いた。
「ルキアスちゃんがどうしてここに?」
「メイナーダさん!?」
無論ユアも一緒であった。
そして「俺も『捏ね』てみる」とタイラクが別途持っていた先生肉を『捏ね』ようと試みるが、何も起きなかった。
「俺も小麦粉なら二〇年以上毎日『捏ね』てたんだがなぁ。小麦粉だけ『捏ね』てたんじゃ足りなかったのか」
少し切なそうにぼやいた。
「だが話は理解した。腕によりを掛けて焼いてやるよ」
シェフは仕度を始めた。
一方、ルキアスには目先でする事が無くなった。もしも肉が足りなくなった時やデモンストレーションが必要な時にまた先生肉を『捏ね』て見せるくらいのものだ。暇になったので周囲の様子に目を向ける。
(……)
見渡しが利きやすそうな場所まで十数歩移動した。ロマとフヨヨンが付き添った。
部屋の広さは幅、奥行き、高さが全て第一〇階層ボス部屋の倍ほどもあり、かなり多くの人が行き交っている。ルキアス一人が紛れ込んでも誰も気に留めない様子だ。
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「涌かないってだけでも不思議ですけど……」
「これだけ広いダンジョンなんだよ? これくらいのイレギュラーはあって当然さ。それでも先人達はここを見付けるまでに随分苦労したって話が残されてるよ。それも当然だね。この部屋で魔物が涌かないのを知るまでには何日も何十日もここに居続けなければならないんだからね。ルキアスが感じた通りの先入観もあっただろうにね」
「そうですよね……」
ルキアスに反論が思い付かなかった。
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改めて建物に目を向ければ、築二〇年は超えているだろう建物がそこかしこに見える。
「攻略は九三階の途中までで止まって久しいんだよ」
「何か進めない理由があるんですか?」
「単に魔物が強いだけだね。そのせいで停滞してるんだよ。突破するには何らかのイノベーションが必要だね」
話をしている間に肉を焼き始めたらしい。香ばしい匂いが流れて来る。
「これは堪らないね。戻るよ」
フヨヨンは匂いを嗅ぐように鼻を鳴らしてシェフが肉を焼く近くへと戻って行ってしまった。
ロマが肩を竦めてみせるが、肉が気になるのは同じらしい。
匂いに誘われるように他の人も集まって来る。
ルキアスとロマも戻り、肉を配る手伝いを始めた。そしてその途中のことだった。
「これは何の匂いかしら?」
「肉串の匂いです。お一つどうぞ」
後から聞こえた声に振り向いて肉串を差し出すと、相手がびっくりしたように目を見開いた。
「ルキアスちゃんがどうしてここに?」
「メイナーダさん!?」
無論ユアも一緒であった。
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