420 / 627
420 安全地帯
しおりを挟む
食べてびっくりしたシェフはルキアスが『捏ね』た肉だと聞いてまたびっくりした。
そして「俺も『捏ね』てみる」とタイラクが別途持っていた先生肉を『捏ね』ようと試みるが、何も起きなかった。
「俺も小麦粉なら二〇年以上毎日『捏ね』てたんだがなぁ。小麦粉だけ『捏ね』てたんじゃ足りなかったのか」
少し切なそうにぼやいた。
「だが話は理解した。腕によりを掛けて焼いてやるよ」
シェフは仕度を始めた。
一方、ルキアスには目先でする事が無くなった。もしも肉が足りなくなった時やデモンストレーションが必要な時にまた先生肉を『捏ね』て見せるくらいのものだ。暇になったので周囲の様子に目を向ける。
(……)
見渡しが利きやすそうな場所まで十数歩移動した。ロマとフヨヨンが付き添った。
部屋の広さは幅、奥行き、高さが全て第一〇階層ボス部屋の倍ほどもあり、かなり多くの人が行き交っている。ルキアス一人が紛れ込んでも誰も気に留めない様子だ。
「こんなに広いのに安全だなんてあるの?」
「安全地帯ってのはこの部屋の中じゃ魔物が涌かないってだけの話だよ。徘徊している魔物は普通に襲って来るよ」
「涌かないってだけでも不思議ですけど……」
「これだけ広いダンジョンなんだよ? これくらいのイレギュラーはあって当然さ。それでも先人達はここを見付けるまでに随分苦労したって話が残されてるよ。それも当然だね。この部屋で魔物が涌かないのを知るまでには何日も何十日もここに居続けなければならないんだからね。ルキアスが感じた通りの先入観もあっただろうにね」
「そうですよね……」
ルキアスに反論が思い付かなかった。
「あ、でも、先人てことは、ここって拠点になってから随分経つんですね」
改めて建物に目を向ければ、築二〇年は超えているだろう建物がそこかしこに見える。
「攻略は九三階の途中までで止まって久しいんだよ」
「何か進めない理由があるんですか?」
「単に魔物が強いだけだね。そのせいで停滞してるんだよ。突破するには何らかのイノベーションが必要だね」
話をしている間に肉を焼き始めたらしい。香ばしい匂いが流れて来る。
「これは堪らないね。戻るよ」
フヨヨンは匂いを嗅ぐように鼻を鳴らしてシェフが肉を焼く近くへと戻って行ってしまった。
ロマが肩を竦めてみせるが、肉が気になるのは同じらしい。
匂いに誘われるように他の人も集まって来る。
ルキアスとロマも戻り、肉を配る手伝いを始めた。そしてその途中のことだった。
「これは何の匂いかしら?」
「肉串の匂いです。お一つどうぞ」
後から聞こえた声に振り向いて肉串を差し出すと、相手がびっくりしたように目を見開いた。
「ルキアスちゃんがどうしてここに?」
「メイナーダさん!?」
無論ユアも一緒であった。
そして「俺も『捏ね』てみる」とタイラクが別途持っていた先生肉を『捏ね』ようと試みるが、何も起きなかった。
「俺も小麦粉なら二〇年以上毎日『捏ね』てたんだがなぁ。小麦粉だけ『捏ね』てたんじゃ足りなかったのか」
少し切なそうにぼやいた。
「だが話は理解した。腕によりを掛けて焼いてやるよ」
シェフは仕度を始めた。
一方、ルキアスには目先でする事が無くなった。もしも肉が足りなくなった時やデモンストレーションが必要な時にまた先生肉を『捏ね』て見せるくらいのものだ。暇になったので周囲の様子に目を向ける。
(……)
見渡しが利きやすそうな場所まで十数歩移動した。ロマとフヨヨンが付き添った。
部屋の広さは幅、奥行き、高さが全て第一〇階層ボス部屋の倍ほどもあり、かなり多くの人が行き交っている。ルキアス一人が紛れ込んでも誰も気に留めない様子だ。
「こんなに広いのに安全だなんてあるの?」
「安全地帯ってのはこの部屋の中じゃ魔物が涌かないってだけの話だよ。徘徊している魔物は普通に襲って来るよ」
「涌かないってだけでも不思議ですけど……」
「これだけ広いダンジョンなんだよ? これくらいのイレギュラーはあって当然さ。それでも先人達はここを見付けるまでに随分苦労したって話が残されてるよ。それも当然だね。この部屋で魔物が涌かないのを知るまでには何日も何十日もここに居続けなければならないんだからね。ルキアスが感じた通りの先入観もあっただろうにね」
「そうですよね……」
ルキアスに反論が思い付かなかった。
「あ、でも、先人てことは、ここって拠点になってから随分経つんですね」
改めて建物に目を向ければ、築二〇年は超えているだろう建物がそこかしこに見える。
「攻略は九三階の途中までで止まって久しいんだよ」
「何か進めない理由があるんですか?」
「単に魔物が強いだけだね。そのせいで停滞してるんだよ。突破するには何らかのイノベーションが必要だね」
話をしている間に肉を焼き始めたらしい。香ばしい匂いが流れて来る。
「これは堪らないね。戻るよ」
フヨヨンは匂いを嗅ぐように鼻を鳴らしてシェフが肉を焼く近くへと戻って行ってしまった。
ロマが肩を竦めてみせるが、肉が気になるのは同じらしい。
匂いに誘われるように他の人も集まって来る。
ルキアスとロマも戻り、肉を配る手伝いを始めた。そしてその途中のことだった。
「これは何の匂いかしら?」
「肉串の匂いです。お一つどうぞ」
後から聞こえた声に振り向いて肉串を差し出すと、相手がびっくりしたように目を見開いた。
「ルキアスちゃんがどうしてここに?」
「メイナーダさん!?」
無論ユアも一緒であった。
5
お気に入りに追加
991
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです
はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。
とある国のお話。
※
不定期更新。
本文は三人称文体です。
同作者の他作品との関連性はありません。
推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。
比較的短めに完結させる予定です。
※

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる