412 / 627
412 付与
しおりを挟む
「こんな感じにしか出来ませんでしたけど……」
ルキアスは出来上がった指輪っぽい物をタイラクに差し出した。丸い鉄棒に巻き付ける要領で丸めたお陰で指に接する内側部分は滑らかになっているので指に填めても痛くならない。だが外側部分はガタガタな見た目で、装飾品としては落第だ。
タイラクが指に填める。指が太くて小指にしか填らなかった。
「上等、上等。填めて邪魔にならなきゃそれでいいさ」
タイラクはそう言いながら指輪を外し、メイナーダに差し出した。
「何か魔法入れてくれ」
「何かって何をかしら? 『手当て』くらいしか入れられる魔法は無いのだけど」
「あの、魔法ってどうやって籠めるんですか?」
ルキアスには単純な興味もあったが、蒸気銃に使ったアダマントに不用意に魔法が籠められても困る不安もあった。
「練習したら誰でもできる方法ならアダマントの中で魔法を使うことね。だから自分で使える魔法しか籠められないわ。天職に『付与』があったら自分で使えない魔法も籠められるのだけどね」
「アダマントに魔法を掛けるだけなんですか?」
「違うわ。アダマントにじゃなくて、中で使うの。魔法を発動させないようにアダマントに押し込むと考えてもいいわ」
「まだよく判りませんけど、アダマントを持ったまま魔法を使ったらアダマントが勝手に吸い込んじゃうなんてことには?」
「ならないわね」
「良かった……。『加熱』なんかが吸い込まれたら危なそうだから」
「もし魔法をアダマントに使うだけで入るようだと、ルキアスちゃんなら『捏ね』が入っちゃうわね」
「確かに!」
『捏ね』が入ったらどうなるのか想像もできないが、気持ち悪いことになりそうな予感のルキアスだ。そしてそんな気持ち悪い事態に陥ってないのは単純に魔法を使うだけでは何も起きないと言うことだ。目の前の現実があれば納得もし易い。
「なあ、蘊蓄はいいんだが、指輪の方はどうなったんだ?」
「はいはい。これでいいんでしょ」
メイナーダは痺れを切らしたらしいタイラクに指輪を差し出した。話す間に籠めていたらしい。
タイラクは指輪を小指に填めた。
「お、いいじゃねぇか。下手な『治癒』よりいい感じだぞ」
「冗談は止してよ。そんな筈ないでしょ」
「いやいやほんとだって。填めてみろよ」
メイナーダはタイラクが外して差し出す指輪を受け取って中指に填めた。
「あら? ほんとだわ」
メイナーダは首を傾げた。そんな仕草は意外と可愛らしい。タイラクが一瞬見蕩れた後で肩を竦めるのがルキアスの目に映った。「子持ちじゃなけりゃなぁ」と声が聞こえそうだった。
それはそれとしてルキアスには疑問もある。
「怪我が無いのに『手当て』の効果なんて判るんですか?」
「これって疲れが取れるのよ。少し働いた後だからそれを感じやすいわ」
割と単純な理由だった。
ルキアスは出来上がった指輪っぽい物をタイラクに差し出した。丸い鉄棒に巻き付ける要領で丸めたお陰で指に接する内側部分は滑らかになっているので指に填めても痛くならない。だが外側部分はガタガタな見た目で、装飾品としては落第だ。
タイラクが指に填める。指が太くて小指にしか填らなかった。
「上等、上等。填めて邪魔にならなきゃそれでいいさ」
タイラクはそう言いながら指輪を外し、メイナーダに差し出した。
「何か魔法入れてくれ」
「何かって何をかしら? 『手当て』くらいしか入れられる魔法は無いのだけど」
「あの、魔法ってどうやって籠めるんですか?」
ルキアスには単純な興味もあったが、蒸気銃に使ったアダマントに不用意に魔法が籠められても困る不安もあった。
「練習したら誰でもできる方法ならアダマントの中で魔法を使うことね。だから自分で使える魔法しか籠められないわ。天職に『付与』があったら自分で使えない魔法も籠められるのだけどね」
「アダマントに魔法を掛けるだけなんですか?」
「違うわ。アダマントにじゃなくて、中で使うの。魔法を発動させないようにアダマントに押し込むと考えてもいいわ」
「まだよく判りませんけど、アダマントを持ったまま魔法を使ったらアダマントが勝手に吸い込んじゃうなんてことには?」
「ならないわね」
「良かった……。『加熱』なんかが吸い込まれたら危なそうだから」
「もし魔法をアダマントに使うだけで入るようだと、ルキアスちゃんなら『捏ね』が入っちゃうわね」
「確かに!」
『捏ね』が入ったらどうなるのか想像もできないが、気持ち悪いことになりそうな予感のルキアスだ。そしてそんな気持ち悪い事態に陥ってないのは単純に魔法を使うだけでは何も起きないと言うことだ。目の前の現実があれば納得もし易い。
「なあ、蘊蓄はいいんだが、指輪の方はどうなったんだ?」
「はいはい。これでいいんでしょ」
メイナーダは痺れを切らしたらしいタイラクに指輪を差し出した。話す間に籠めていたらしい。
タイラクは指輪を小指に填めた。
「お、いいじゃねぇか。下手な『治癒』よりいい感じだぞ」
「冗談は止してよ。そんな筈ないでしょ」
「いやいやほんとだって。填めてみろよ」
メイナーダはタイラクが外して差し出す指輪を受け取って中指に填めた。
「あら? ほんとだわ」
メイナーダは首を傾げた。そんな仕草は意外と可愛らしい。タイラクが一瞬見蕩れた後で肩を竦めるのがルキアスの目に映った。「子持ちじゃなけりゃなぁ」と声が聞こえそうだった。
それはそれとしてルキアスには疑問もある。
「怪我が無いのに『手当て』の効果なんて判るんですか?」
「これって疲れが取れるのよ。少し働いた後だからそれを感じやすいわ」
割と単純な理由だった。
2
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる