生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
404 / 627

404 受け止めた

しおりを挟む
 ガッキョオオォォンン……。

 耳をつんざくような甲高い激突音を起て、光の壁は魔物の突進を受け止めた。
 エリリースが瞑ってしまっていた目を恐る恐る開く。

「今のは一体……?」
「ザネクの天職『大盾』が魔物を弾き返したの……よ。ザネクは使いたがらないのだけど……ね」
「確かに使ってるところを見たこと無いけど、どうして? こんなに凄いのに……」

 疑問を投げ掛けたのはルキアスだ。ルキアスの目には探索に有用そうな天職を持ち腐れさせるのは酷く勿体なく見える。ましてや『傘』を盾として使う必要が感じられなかった。
 だが有用でも本人がしたい事との齟齬はあるものだ。

「……動けないんだよ。『大盾』を使うと酷くゆっくりにしか動けなくなる。俺、剣士だぜ? 動けないなんて致命的だろ」
「でもこんなに強い盾なら今みたいな使い方はできるよね?」
「そりゃここが行き止まりだからだ。これが広い場所だったら後に回り込まれて一巻の終わりだ」

 これが『要塞』なら動けずとも全周防御なので隙は出来ない。だが『大盾』は一方向のみの防御で、敵の回り込みに対応するには足を止められない。だが『大盾』を出したのではそれに追従できるだけの速さが出せない。それが隙になってしまうのだ。その上、『大盾』を引き摺っていては剣を思うように振れず、攻撃もままならない。こうして防御も攻撃も中途半端では戦うに戦えない。
 そこでザネクは『大盾』を捨てる決心をした。これなら攻撃が劣化しない。剣士として防御よりも攻撃を優先させたのだ。
 話を聞き終えたルキアスはもう反論を持ち合わせていなかった。それでも勿体ないと思いつつ見ていると、ザネクが小さく呻いた。

「くっ……」

 話をする間にも魔物は幾度となく『大盾』に体当たりを敢行していた。

「姉ちゃん、破られる。早くなんとかしてくれ」

 天職であっても術者が二〇レベル間近程度では六〇レベルの魔物を抑え続けるのは難しいらしい。『大盾』を出し直すのもタイミングがシビアで、失敗の可能性を考えればおいそれとは行えない。
 リュミアは言葉でなく、杖で床を二度突いて応えた。ザネクの状況は理解していたらしく、大きな魔法の準備中のようだ。下手に返事をして集中力を途切れさせないよう、動作で示したのだ。エリリースの安全を考えれば魔法を何度も放つ猶予など無い。
 魔物の体当たりが繰り返される度に『大盾』の立てる軋み音が増してゆく。
 限界はそう時を置かずに訪れた。
 『大盾』が砕け散る。
 しかしその瞬間に合わせるようにリュミアが魔法を放つ。

「『水魔刃』」

 無数の水で出来た刃が魔物へ殺到する。
 魔物はその勢いに弾き飛ばされながら切り刻まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...