393 / 627
393 講習を終えて
しおりを挟む
昼から始めた講習は終わってみれば二時間掛かっていなかった。ルキアスは会場となった訓練場を後にする人々を眺めながら大きく息を吐く。
「つっかれたーっ」
準備の時間はそれなりに掛かっていても体力的にはそうでもない。それよりも講師の立場の気疲れを強く感じるルキアスだ。
「お疲れさん。どうにか終わらせたな」
「あ、デナンさんもお疲れさま。一時はどうなることかと思ったけど……」
「俺らの見込みが甘かったな。ああも収拾が付かなくなるとは」
「そう……、あ、そうだ」
ルキアスは話の流れで思い出した。目的の人物を探して数歩進み出る。
「タイラクさん! 今日はありがとうございました! お陰で無事に終われました!」
タイラクが呼び掛けに応えるのを待って頭を下げながらお礼を言った。
ところがそれから三拍ほど遅れてデナン達が腰を直角に折りながらタイラクに向けて頭を下げる。
「〃「ありあとしたーっ!」〃」
「えっ?」
その突然の声にルキアスはビクッとなって引いた。
タイラクも頭を押さえて困り顔だ。
「何で俺ばっかり怖がられなきゃならないんだ?」
強さだけで言えばメイナーダも大差無いのにとぼやく。
「見た目って大事よ?」
「そんなのどうしようもねぇだろ」
「だから諦めることね。見ず知らずの人相手に『もしも殴り掛かられたら』って思われるのはしょうがないじゃない?」
「そんなに暴力的に見えるか?」
「見えるわね」
メイナーダの言葉にタイラクはがっくり肩を落とした。
ルキアスはフォローのしようが無い。畏怖を感じてしまうのはあるのだから、下手に言うと嘘くさくなってしまう。
そのまま立ち尽くしていると、メイナーダが「ここはいいから」と言うように手を振るのでそこを離れ、ザネクの許へと移動する。
「ザネク、リュミアさん、今日はありがとう。エリリースも来てくれて嬉しかったよ」
「どういたしましてだ。大した事はしてないがな」
「お役に立てたなら良かった……わ」
「ルキアスの『傘』の進化には驚かされましたわ」
「あはは……。『傘』はぼくの生命線みたいなものだからかな」
「ところでルキアス、あれは何だったんだ? 『傘』に飛び乗ったあれは」
「『傘』を差した後で動いたりもしたわ……ね」
一般には『傘』は術者本人との相対位置で差す。この方が歩く際に『傘』に気を使わなくても一緒に動くのだ。逆に言えば差した後に『傘』だけ残して移動しようと思ってもできない。
「それは私も聞きたいね。ルキアス君の『傘』はそちらのお二人とは一線を画していた。その理由を聞かせて貰えるだろうか?」
「はい。……と言っても、特別にしたのは『傘』の基点が地面になるように弄った事だけです」
ルキアスは床や地面を基点にする改造をする前と後の『傘』の違いを大まかに説明した。
「なるほど。しかし今回の講習ではその点に触れなかったのはどうしてだい?」
「普段使いや練習には通常の『傘』の方が使い易いからです」
雨を避けるため、あるいは単に差し続けるだけなら動いた先に勝手に付いて来て欲しいものなのだ。空を飛ぶなどの特殊な場合以外は基点改造後の出番は無いだろう。
「つっかれたーっ」
準備の時間はそれなりに掛かっていても体力的にはそうでもない。それよりも講師の立場の気疲れを強く感じるルキアスだ。
「お疲れさん。どうにか終わらせたな」
「あ、デナンさんもお疲れさま。一時はどうなることかと思ったけど……」
「俺らの見込みが甘かったな。ああも収拾が付かなくなるとは」
「そう……、あ、そうだ」
ルキアスは話の流れで思い出した。目的の人物を探して数歩進み出る。
「タイラクさん! 今日はありがとうございました! お陰で無事に終われました!」
タイラクが呼び掛けに応えるのを待って頭を下げながらお礼を言った。
ところがそれから三拍ほど遅れてデナン達が腰を直角に折りながらタイラクに向けて頭を下げる。
「〃「ありあとしたーっ!」〃」
「えっ?」
その突然の声にルキアスはビクッとなって引いた。
タイラクも頭を押さえて困り顔だ。
「何で俺ばっかり怖がられなきゃならないんだ?」
強さだけで言えばメイナーダも大差無いのにとぼやく。
「見た目って大事よ?」
「そんなのどうしようもねぇだろ」
「だから諦めることね。見ず知らずの人相手に『もしも殴り掛かられたら』って思われるのはしょうがないじゃない?」
「そんなに暴力的に見えるか?」
「見えるわね」
メイナーダの言葉にタイラクはがっくり肩を落とした。
ルキアスはフォローのしようが無い。畏怖を感じてしまうのはあるのだから、下手に言うと嘘くさくなってしまう。
そのまま立ち尽くしていると、メイナーダが「ここはいいから」と言うように手を振るのでそこを離れ、ザネクの許へと移動する。
「ザネク、リュミアさん、今日はありがとう。エリリースも来てくれて嬉しかったよ」
「どういたしましてだ。大した事はしてないがな」
「お役に立てたなら良かった……わ」
「ルキアスの『傘』の進化には驚かされましたわ」
「あはは……。『傘』はぼくの生命線みたいなものだからかな」
「ところでルキアス、あれは何だったんだ? 『傘』に飛び乗ったあれは」
「『傘』を差した後で動いたりもしたわ……ね」
一般には『傘』は術者本人との相対位置で差す。この方が歩く際に『傘』に気を使わなくても一緒に動くのだ。逆に言えば差した後に『傘』だけ残して移動しようと思ってもできない。
「それは私も聞きたいね。ルキアス君の『傘』はそちらのお二人とは一線を画していた。その理由を聞かせて貰えるだろうか?」
「はい。……と言っても、特別にしたのは『傘』の基点が地面になるように弄った事だけです」
ルキアスは床や地面を基点にする改造をする前と後の『傘』の違いを大まかに説明した。
「なるほど。しかし今回の講習ではその点に触れなかったのはどうしてだい?」
「普段使いや練習には通常の『傘』の方が使い易いからです」
雨を避けるため、あるいは単に差し続けるだけなら動いた先に勝手に付いて来て欲しいものなのだ。空を飛ぶなどの特殊な場合以外は基点改造後の出番は無いだろう。
2
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる