生活魔法は万能です

浜柔

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373 街行き

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 ルキアスは街行きを着てダンジョンタワーの外に出た。

(寒……)

 冬の最中、地上は地下と比べて寒さが凍みる。地下には無い風が服の隙間から入り込む。ルキアスはコートの襟を立てた。
 ベクロテの町並みを見るのはこれで三度目だ。一度目はベクロテに来た時。建物の大きさに心を奪われた。二度目はダンジョンタワーの地下が水没した影響で入院した時。退院直後で地下街の様子が気になったために町並みを見るどころではなかった。
 三度目の今日、ダンジョンタワーの地下に住み慣れたこともあって周りに気を向ける余裕もある。すると服を買ったばかりなこともあって、道行く人々の身形にも目が行く。

(みんな綺麗な服着てるな……)

 ルキアスの日頃着ているあちこちに擦り切れのあるような服は地下街では一般的だ。直ぐに汚れるのだから汚れても良い服を着るのは当然で、多くの探索者がそんな身形なので目立たない。ルキアスが買った街行きの服の方が立派すぎて目立ちそうなほどだ。
 ところが街の人々は立派すぎると感じた街行きの服よりもっと華やかな服を着ている。逆に今自分が着ている服こそボロっちくて目立ちそうとまでルキアスには感じられる。
 だからルキアスは気配を殺す努力をしながら周囲を更に観察した。

(誰にも注目されてない?)

 観察の結果は何も無しだった。誰かが見ているような気配は感じられない。悪目立ちするのではと思ったのは杞憂だった。
 まあ、単に気後れから来る考えすぎだから当然だ。
 ところがその時だった。出口の前に佇んだままだったのも悪かっただろう。

「んなとこに突っ立ってたら邪魔だ」

 ルキアスより少し遅れて地上に出た探索者が悪態とも忠告とも取れる言葉を吐き捨てて通り過ぎた。ルキアスは何となくもやっとした気分でその後ろ姿を追ってしまう。するとまた目が行ってしまうのが身形だ。彼の着ている服はルキアスが普段着ているようなボロっちい服だった。
 更に目で追っていると、彼が遠ざかるに連れてその周囲の様子も目に入る。彼の近くを通り過ぎた人が彼を振り返ったりしている。『望遠』で確かめれば眉を顰める人さえいる。
 ルキアスは慌てて周囲に目を配った。

(やっぱり注目されてはなさそう)

 近くを通り過ぎる人は一瞬だけルキアスに目を向けることがあっても無関心に通り過ぎている。嫌悪の表情が浮かんでいない。

(服買って良かった……)

 何をどう買えば良いのか判らなかったせいで古着屋の店主のお勧め通りに服を買ってしまったが、そのお陰で悪目立ちせずに済んだのだと理解したルキアスだった。
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