生活魔法は万能です

浜柔

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371 雑貨店

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 ルキアスは地下街でクッションを探したが、売っている店は見付けられなかった。毛布なども売っている雑貨店で尋ねてみると、地上でしか売ってないと言う。無料宿泊所に泊まるような貧乏探索者には買う余裕が無いから置いても殆ど売れないらしい。ルキアスも『傘』に乗る時に使おうと考えなければ買おうとも思わなかったのだから納得するより無かった。
 代替品に考えられるのは毛布。広がったら面倒だし柔らかくもないが、もっと良い物が用意できなかった時を考え、ルキアスは毛布を畳んで入れられる丈夫な袋を一枚買うことにした。袋に入れれば不用意に広がったりしないので、間に合わせにはなるだろう。
 袋の代金を支払う際、ルキアスは雑貨店の店主にクッションを売っている地上の店を尋ねた。何も買わずに色々聞くだけでは良い顔はされないので、袋の購入は店主の口を滑らかにする潤滑油のようなものだ。
 ところが店主がルキアスの全身を舐め回すように見て言う。

「まさかその恰好で買いに行くつもりか?」

 今のルキアスは探索者の多くがそうであるように、どこか薄汚れた印象を受ける。洗濯はそれなりにしているので汚れてはいないが、ベクロテに来てからだけでも一年余り。この間に出来た擦り切れやほつれ、落ちない染みがそこかしこにあって印象を悪くしている。

「駄目……ですか?」
「絶対って訳じゃないが、恥ずかしい思いをするのは間違いないな」
「恥ずかしい、ですか……」
「おう。周りがみんなパリッとした服着てる中に一人だけよれよれを着てるのを想像してみろ。それで無理なら周りがみんな服着てるのに一人だけすっぽんぽんなのを想像してみろ」
「そこまでですか!?」

 ルキアスは店主の譬えに戦慄を覚えた。周りが見渡す限りの身形を頓着しない探索者ばかりなのに引き摺られて自分の身形も全く頓着していなかったのだ。このままではエリリースに合わせる顔も無い。

「ふ、服は……、ど、どこで買えば……?」
「ぷっ……」

 ルキアスのあまりの動揺っぷりに店主は噴き出した。

「そっちに行ったら古着屋があるから、そこででも見繕うんだな」
「古着……」

 ルキアスの気が進まなそうな表情を見て、店主は呆れたように息を吐く。

「古着ったって馬鹿にしちゃいけないぜ。物に依っちゃ新品同然だからな。新品が良ければもっと稼ぐことだ。袋一枚買うのにも安物を狙うようじゃ、夢のまた夢だろうな」
「うう……」

 ルキアスには返す言葉も無い。

「……その店に行ってみます」
「おう。そうしな」

 うっすら笑ったままの店主に見送られながらルキアスは店を出た。
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