生活魔法は万能です

３６６ アウトインアウト

　翌日。ルキアスは第六階層で『傘』の習熟に励む。目標は壁にぶつかっても『傘』が砕けないようにすることだ。となればクラッシュ前提で少々荒い飛び方をする。飛ぶのは床に落ちて致命的なダメージを受けないように床すれすれだ。だから第六階層。ここなら上からの攻撃を受けないので低い位置を飛んでも問題ない。

「痛っ！」

　早速のクラッシュ。床すれすれでも落ちればそれなりに痛い。周りに魔物が居なかったのが幸いだった。
　気を取り直して『傘』に乗る。
　暫く乗り回して慣れた頃、曲がり角を高速で曲がろうとして危うく落ちかけた。咄嗟に落ちそうになった側に『傘』を動かして事無きを得るが、心臓はバクバクだ。

（判ってた筈なのに……）

　曲がる時には緩やかな曲線を描きつつ『傘』を傾けなければならないのを失念していた。今までとは勝手が違う部分に気持ちが行ってしまって基本が疎かになっていた。それに少々調子にも乗ってしまっていた。
　『傘』の位置指定を床にしたことで、狭い場所でもスピードを出しやすくなり、多少スピードを出していても角を曲がれないことも無くなっている。思いの外行き過ぎてしまったりしないためだ。しかしその一方、基点を動かす特性上、直角にだって曲がれてしまい、無意識にでもそれをやってしまうと『傘』だけ曲がって乗っているルキアスは曲がらないなんてことになる。すると『傘』から飛び出したり、『傘』に身体を打ち付けたりしてしまう訳だ。自爆のような怪我ほど損なものは無い。
　広々とした第四階層では今まで通りの雰囲気で飛んでしまい、直角に近い機動は意識にも上がらなかった。そうする必要が無かったことによる見落としであった。

（もう少し慎重に）

　直角に曲がるような身体に負担が掛かりすぎる機動を行ってはいけないし、クラッシュ前提でも無意味なクラッシュはいけない。
　無理なく曲がるためにはできるだけ緩い曲線を描くように飛ぶ。曲がる前には回廊の外側に、曲がり角では内側に、曲がった先ではまた外側にのアウトインアウトで飛ぶのだ。
　曲がった先に誰か居ては危ないので『鏡』での確認もしっかりとだ。
　そうしてルキアスは第六階層を一日飛び続けた。
　ただ、飛ぶのに集中していて稼ぎは殆ど無かったのを引き上げる段になって知って愕然とした。