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364 勿体なかったね
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ルキアスが警察が慌ただしく出入りしている店舗をぼんやり眺めながら「ザネクにどう話したものか」と考えていると、肩を突かれた。振り向けばリュミアだ。
リュミアが目配せでとある方向を指し示すので見てみれば、ザネクが頭を抱えて蹲っていた。
ルキアスは「どうしてここに?」と思い掛けたが、警官がこれだけ行き来していれば何か起こったことくらい直ぐに判る。ザネクもそうして気付いたのだろう。
「えーと、ザネクは何て……?」
リュミアは頭を振った。
「わたし達が来た時にはもうあの調子だったの……ね」
ルキアスが「達」に疑問を抱いて改めてザネクの周囲を見てみれば、彼の兄ガノスが難しい顔をして立っていた。ザネクがあんな様子では放っておけなかったに違いない。
ルキアスはガノスに会釈しながらザネクの横にしゃがむ。
「ザネクは……」
言い掛けてはたと考えた。ザネクは何に落ち込んでいるのだろう? 期待した天職を手にできなかったことか。はたまた騙されたことか。
「……お金、勿体なかったね」
色々考える間にどうでも良い話が口から出た。
「ぐ……」
ところがザネクがそれに応えるように呻き声を出す。
「違ぇよ! 確かに勿体なかったけどよ! ったく、ルキアスの前じゃ悩んでるのが馬鹿らしくなるぜ」
ザネクは立ち上がってそっぽを向きつつ頭を掻いた。
ルキアスにはザネクが復活した理由に見当がつかない。しかし元気になるなら良いことだ。
「前のめりになりすぎてて詐欺師だと見抜けなかったのが悔しくてな」
「そうなんだ?」
「あのな……、ルキアスはあの鑑定師が詐欺師だって気付いてたんだろ?」
「それはその……、確証は無かったから……」
「ちゃんと疑ってたってだけで、しっかり見えてたってことさ。俺は全く見えてなかった」
どうやらザネクは強く反省しているらしい。
しかしある意味では当然かも知れない。騙されれば最悪命を取られかねないのだから。
それにいつもはルキアスが他人に騙されないよう監督している筈が、鑑定師に関しては自らが騙されると言う失態を演じてしまったのだ。これも些か精神的ダメージが大きかったに違いない。
「えーと、それなら天職を新しく手に入れるのはもう諦めるんだよね?」
「いや、それは諦めてないぜ」
「え!?」
「あの鑑定師は詐欺師だったけどな、今から天職を手に入れられないとは限らないだろ?」
「そう……なるの……かな?」
ルキアスは首を傾げた。ザネクはそんなルキアスに苦笑で応える。
「それはそれとして、リュミア姉ちゃんに言われた事でもしてみるさ」
「言われた事って?」
「今持ってる天職を鍛えてみるってことだ」
ルキアスがリュミアを見ると、リュミアは小さく頷いた。ルキアスと話した中にあったことをザネクにも話していたらしい。
リュミアが目配せでとある方向を指し示すので見てみれば、ザネクが頭を抱えて蹲っていた。
ルキアスは「どうしてここに?」と思い掛けたが、警官がこれだけ行き来していれば何か起こったことくらい直ぐに判る。ザネクもそうして気付いたのだろう。
「えーと、ザネクは何て……?」
リュミアは頭を振った。
「わたし達が来た時にはもうあの調子だったの……ね」
ルキアスが「達」に疑問を抱いて改めてザネクの周囲を見てみれば、彼の兄ガノスが難しい顔をして立っていた。ザネクがあんな様子では放っておけなかったに違いない。
ルキアスはガノスに会釈しながらザネクの横にしゃがむ。
「ザネクは……」
言い掛けてはたと考えた。ザネクは何に落ち込んでいるのだろう? 期待した天職を手にできなかったことか。はたまた騙されたことか。
「……お金、勿体なかったね」
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「ぐ……」
ところがザネクがそれに応えるように呻き声を出す。
「違ぇよ! 確かに勿体なかったけどよ! ったく、ルキアスの前じゃ悩んでるのが馬鹿らしくなるぜ」
ザネクは立ち上がってそっぽを向きつつ頭を掻いた。
ルキアスにはザネクが復活した理由に見当がつかない。しかし元気になるなら良いことだ。
「前のめりになりすぎてて詐欺師だと見抜けなかったのが悔しくてな」
「そうなんだ?」
「あのな……、ルキアスはあの鑑定師が詐欺師だって気付いてたんだろ?」
「それはその……、確証は無かったから……」
「ちゃんと疑ってたってだけで、しっかり見えてたってことさ。俺は全く見えてなかった」
どうやらザネクは強く反省しているらしい。
しかしある意味では当然かも知れない。騙されれば最悪命を取られかねないのだから。
それにいつもはルキアスが他人に騙されないよう監督している筈が、鑑定師に関しては自らが騙されると言う失態を演じてしまったのだ。これも些か精神的ダメージが大きかったに違いない。
「えーと、それなら天職を新しく手に入れるのはもう諦めるんだよね?」
「いや、それは諦めてないぜ」
「え!?」
「あの鑑定師は詐欺師だったけどな、今から天職を手に入れられないとは限らないだろ?」
「そう……なるの……かな?」
ルキアスは首を傾げた。ザネクはそんなルキアスに苦笑で応える。
「それはそれとして、リュミア姉ちゃんに言われた事でもしてみるさ」
「言われた事って?」
「今持ってる天職を鍛えてみるってことだ」
ルキアスがリュミアを見ると、リュミアは小さく頷いた。ルキアスと話した中にあったことをザネクにも話していたらしい。
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