生活魔法は万能です

浜柔

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360 柔らかく

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 『傘』そのものを柔らかくしようにも、そのための魔法がルキアスには見当もつかない。『捏ね』て柔らかくする訳にも行かないのだ。だから可能性があるとするなら柔らかく受け止める仕組みを設けることだろう。
 それこそ腕立て伏せのようなものだ。転けそうになった時に手を突いて勢いを殺すように、『傘』が壁にぶつかると同時に『傘』を手前に動かすイメージだ。
 だがこれは既に試して失敗している。

(できそうな感じはするんだけどなぁ)

 『傘』が何かにぶつかるのは微かながら感じられる。その感覚と『傘』が砕けるまでには刹那ほどであれ間がある。だとするならその刹那にどうにかできれば実現の目があるように感じられるのだ。
 これが叶うならその隙に『傘』を適切な方向に動かせば良い。
 だが考えてからでは間に合わない。意識して動かすのでは正確なタイミングと方向を掴みきれない。反射的に止めなければならないのだ。果たして自身との相対位置を反射的に進行方向と逆方向に動かせるものだろうか。

(止めるだけなら難しくなさそうだけど……)

 ルキアスは『傘』を差し、自らは乗らずに壁へと向かわせる。そして壁に衝突した瞬間に『傘』を止める。一度目はパリンと砕けた。止めるタイミングが遅すぎた。だからタイミングを調整しながら幾度か同じ事を試みる。
 幾度か目には『傘』が割れずに止まった。

(やっぱり止めるだけならできる)

 だが今のこれは『傘』に乗ってないからできたのだ。乗らなければ、自身が動かなければ術者からの相対位置で定義される『傘』は勝手に動いたりしない。相対位置を動かさなければ『傘』も止まる。ところが『傘』に乗って動く場合は相対位置を固定しても慣性で暫く移動し続けるので、『傘』もそれに連れて動く。前方に壁が在ったら激突だ。

(ぼくが動くからなぁ。『傘』の位置を動かない物に合わせられればいいのに……、あっ! それ目指せばいいんじゃないか……)

 これなら壁に当たったら即止めることが叶うだけではない。床との相対位置で『傘』を固定できれば乗り込むのも楽になる。
 ルキアスは早速『傘』の定義を見直す。位置決めの構造を地面、あるいは背景からの相対位置に置き換えるのが目標だ。
 ただその位置決め部分を何から流用するか。『加熱』や『均し』なら対象物からの相対位置だ。他には……。

(あ、『穴掘り』)

 もしかしたら対象物が地面と言うだけで『加熱』と同じかも知れない。しかし地面が絡むのならどうとでもなる筈だ。
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