生活魔法は万能です

浜柔

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347 火力が足りない

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「そんじゃルキアス、次は飛ぶ方を頼むぜ」
「うん」

 ルキアスは一旦『傘』を消し、下に向けて差し直す。そして慎重に乗り込んだ。
 乗る時は未だに緊張する。迂闊に乗れば、術者からの相対位置を保とうとする『傘』が逃げる。乗るのに合わせて『傘』の相対位置を手前にずらさなければならないのだ。
 位置取りを決めたルキアスは『傘』をゆっくり浮上させた。
 ぽかんとルキアスを見上げる一同。順番待ちしている他の探索者も同じ表情をしている。

「お、おま……、ルキアス、マジ何だ? それ」
「どうして今びっくりしてるの!?」
「そりゃ……」

 デナン達が喫驚にルキアスの方こそ驚いた。
 だがデナン達にも言い分はある。頭ごなしに否定しないだけで、よくある武勇伝程度の眉唾な噂の認識だったのだ。よくて一瞬浮いてお終いだろうと。常識に照らし合わせれば自分の目で見なければ信じられない話だろう。ところがルキアスはずっと飛んでいられそうに安定していて、度肝を抜かれた。

「まさかそこまでとは思わなかった」
「ちょっと思ったんだけどよ? そんな事ができるならルキアスが上から撃てば一人でもボスをやれるじゃないか?」
「おー、確かにそうだな。どうなんだ? ルキアス」
「多分できるけど、弾丸が何発必要か判ったものじゃないから、やりたくないかな」
「そうか、火力が足りないんだな」
「ならネナイトが一緒に乗って魔法を撃てばいいんじゃないか?」
「やってみるか? 俺は構わんぞ?」

 ネナイトは乗ってみたいのか、若干そわそわしている。

「だったらやってみてくれ。全員で山分けは変えられないけどな。ルキアスはどうだ?」
「試すだけならいいよ」
「試すだけ? どうしてだ? 上手く行くならこれからもやればいいじゃないか」
「だって楽をし過ぎると身体が鈍るでしょ?」
「……反論できねぇな。しゃーない。一回だけ頼むぜ」
「判った。と言っても、明日だよね?」
「おっと、そうだった」

 デナンのパーティーの今日のボス戦はもう終わっている。疲れた状態でボス戦に挑む訳にも行かないので、ルキアスの鍛練はボス戦の後に行っているのだ。
 デナンは額に手を当て、軽く口を尖らせ、歪める。お預けを食らったようなものだったからだ。
 ところがその時……。

「なあ、俺たちにも山分けしてくれるなら、俺たちの順番を譲るぜ。それで見せてくれよ」

 次に待っているパーティーが声を掛けて来た。
 デナンは相手の言葉を消化する間を作るかのようにゆっくり振り返る。

「いいのか?」
「ああ。俺らもちょっと、いやかなり興味あるからな」
「取り引き成立だ」

 デナンは握手の形で右手を差し出し、相手はその手を躊躇無く握り返した。
 そしてボス戦の時。ルキアスが再度『傘』を差して乗り込み、ネナイトが恐る恐る乗り込む。興味はあってもいざ乗る段になって躊躇いが出たようだ。だがそれも乗る途中だけのこと。乗る時にはビクついていたネナイトも乗った後は『傘』がしっかりしているのに気付いてか、間もなく落ち着いた。
 ルキアスはゆっくりと『傘』を動かし、ボス部屋へと入った。
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