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329 プリズム
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「兄弟、また難しい顔してんのか?」
「あ、ロマさん。ぼくそんなに難しい顔してた?」
ルキアスがラビット丼を食べていると、どこからともなくロマが現れた。
「おう。悩んでそうな顔だ。この前言ってた『鏡』が上手く行かないのか?」
「実はそうなんですよ」
何となく真面目腐った顔で丁寧に返すルキアスだ。
「見え方がどうにも慣れなくて……」
ルキアスがかくかくしかじかと説明すると、今度はロマが腕を組んで難しい顔をした。
「見え方ねぇ。歪む方は『望遠』で少しはマシにできるかもな」
「『望遠』で?」
「ああ。『望遠』ってのは望遠鏡を魔法で再現してるだけだからな。構造も同じなんだ。だからレンズの厚み次第で糸巻き型や樽型に歪ませられるんじゃないか?」
「レンズ……」
「あ、レンズを知らないのか。そっか、知らずに生活することもできるのか。そりゃそうだな……」
「もしかしてぼく馬鹿にされてる?」
「違う違う。むしろ感心してたところだ。ルキアスの周りに眼鏡を掛けてるヤツが居なかったってことだからな」
「眼鏡もよく判らないけど、レンズって?」
「まあ、説明するより実物を見た方が早いだろうな」
ロマは『収納』から天眼鏡を取り出した。
「ほら、これを手にでも翳してみろ。大きく見えるだろ?」
ルキアスがロマに貸して貰った天眼鏡を自らの手に翳した。
「へー」
「こいつがレンズだ」
ロマは天眼鏡のガラスを指で突きながら言った。
「ガラス?」
「そうだ。レンズってのは材質じゃなく形のことだからな。で、こいつには癖があって、作り方次第で兄弟が見づらいって言ってるような歪み方をする。『鏡』で歪むならそれと正反対の歪み方をさせれば元通りって寸法だ」
「なるほど?」
「……何だか頼りないが、試してみればいいさ」
「うん。そうするよ」
ルキアスは頷くが、話がまだ終わった訳ではない。左右反転の問題が残っている。
「もう一つの左右が逆になるのはプリズムを使えばどうにかなるだろう。これだ」
ロマはまた『収納』からプリズムを取り出した。断面が直角二等辺三角形の直角プリズムだ。
ルキアスの目には何の役に立つのか判らない。
「これが……。これって普段は何に使うの?」
「何にも」
「え!? そんなのを『収納』に入れてるの!?」
ルキアスには容量の無駄遣いとしか思えなかった。他人より大きな『収納』を持っていても探索していると不足を感じるのだ。
「そんだけ入れる物が少ないってことさ」
「ええ……」
ルキアスは胡散臭そうに見る。
「そんな事よりプリズムを見てみろ。この向きでな」
ロマは三角形の長い辺が視線と平行になるように置いた。そしてルキアスの向こう側で右手の平を横に翳す。
するとルキアスからは部分的にロマの手が左右逆になって見えた。
「これは……」
「このまま使えるもんでもないだろうが、研究してみる価値はあるんじゃないか?」
「うん! そうするよ!」
ルキアスは解決の糸口を手に入れた。
「あ、ロマさん。ぼくそんなに難しい顔してた?」
ルキアスがラビット丼を食べていると、どこからともなくロマが現れた。
「おう。悩んでそうな顔だ。この前言ってた『鏡』が上手く行かないのか?」
「実はそうなんですよ」
何となく真面目腐った顔で丁寧に返すルキアスだ。
「見え方がどうにも慣れなくて……」
ルキアスがかくかくしかじかと説明すると、今度はロマが腕を組んで難しい顔をした。
「見え方ねぇ。歪む方は『望遠』で少しはマシにできるかもな」
「『望遠』で?」
「ああ。『望遠』ってのは望遠鏡を魔法で再現してるだけだからな。構造も同じなんだ。だからレンズの厚み次第で糸巻き型や樽型に歪ませられるんじゃないか?」
「レンズ……」
「あ、レンズを知らないのか。そっか、知らずに生活することもできるのか。そりゃそうだな……」
「もしかしてぼく馬鹿にされてる?」
「違う違う。むしろ感心してたところだ。ルキアスの周りに眼鏡を掛けてるヤツが居なかったってことだからな」
「眼鏡もよく判らないけど、レンズって?」
「まあ、説明するより実物を見た方が早いだろうな」
ロマは『収納』から天眼鏡を取り出した。
「ほら、これを手にでも翳してみろ。大きく見えるだろ?」
ルキアスがロマに貸して貰った天眼鏡を自らの手に翳した。
「へー」
「こいつがレンズだ」
ロマは天眼鏡のガラスを指で突きながら言った。
「ガラス?」
「そうだ。レンズってのは材質じゃなく形のことだからな。で、こいつには癖があって、作り方次第で兄弟が見づらいって言ってるような歪み方をする。『鏡』で歪むならそれと正反対の歪み方をさせれば元通りって寸法だ」
「なるほど?」
「……何だか頼りないが、試してみればいいさ」
「うん。そうするよ」
ルキアスは頷くが、話がまだ終わった訳ではない。左右反転の問題が残っている。
「もう一つの左右が逆になるのはプリズムを使えばどうにかなるだろう。これだ」
ロマはまた『収納』からプリズムを取り出した。断面が直角二等辺三角形の直角プリズムだ。
ルキアスの目には何の役に立つのか判らない。
「これが……。これって普段は何に使うの?」
「何にも」
「え!? そんなのを『収納』に入れてるの!?」
ルキアスには容量の無駄遣いとしか思えなかった。他人より大きな『収納』を持っていても探索していると不足を感じるのだ。
「そんだけ入れる物が少ないってことさ」
「ええ……」
ルキアスは胡散臭そうに見る。
「そんな事よりプリズムを見てみろ。この向きでな」
ロマは三角形の長い辺が視線と平行になるように置いた。そしてルキアスの向こう側で右手の平を横に翳す。
するとルキアスからは部分的にロマの手が左右逆になって見えた。
「これは……」
「このまま使えるもんでもないだろうが、研究してみる価値はあるんじゃないか?」
「うん! そうするよ!」
ルキアスは解決の糸口を手に入れた。
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