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285 氷菓子じゃの
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ルキアスは一人でアイスクリーム作りを試みた。結果はいまいち。変にもったりしつこい舌触りになってしまった。これを改善するには……。
「空気を含ませるんだったよね……」
リュミアが風魔法で撹拌するのを思い出して独りごち、代替手段を考えてみる。
使える風関係の生活魔法は『ふいご』のみ。これは道具としてのふいごを魔法で実現したようなもので、水面を吹いても幾らかの波が立つだけになる。撹拌に使うには甚だ心許ない。
また、水関係の生活魔法は『湧水』を除けば『水掻き』だけ。シャルウィの水魔法で望んだ結果を得られなかったとの話だったのに、それより遥かに弱い魔法でどうにかなるとは思えない。
(泡立て器を用意しなくちゃ)
ここはもう腕力勝負しかない。泡立て器までを自作している場合ではないので買って来る。
アイスクリームの素は失敗したのを融かして使う。問題は空気を含めるかだけだからわざわざ新しい牛乳を煮詰めることもない。
左手で鍋を傾け、『冷却』開始。右手で泡立て器を必死に動かす。どの程度頑張れば良いのか判らないのが辛いところだ。
「ほうほう。氷菓子じゃの」
固まりかけて重くなった泡立て器を笑い出しそうになる腕で必死に掻き交ぜていたルキアスだが、声に驚いたせいであっさり限界を超えた。止まった手は直ぐには動かせそうにない。
その右腕で額の汗を拭い、荒い息を吐きながら振り返る。そこには白い顎髭を湛えた老境の男が立っていた。
「もう出来上がったのかの?」
「どうなんでしょう?」
ルキアスは小首を傾げた。撹拌の塩梅が判らない。固まってはいるので出来上がっていると見なせば見なせないこともない。
そんなルキアスの困惑を見て取ったのか、老人が「ほっほっほ」と楽しげに笑う。
「何、食べてみれば判るだろうの」
「それもそうですね……。それじゃ、何か器があったら貸して貰えますか?」
老人は疑う様子も無く『収納』から器を取り出して差し出した。
ルキアスの方も自然にそれを受け取ってアイスクリームを半分盛って「どうぞ」と老人に返す。そして自らも器を取り出して残りのアイスクリームを盛る。
「催促したようで悪いの」
「あ、いえ……」
ルキアスは半ば無意識で老人にアイスクリームを渡していた。だから催促された意識が無いのだ。言われて初めてそんな状況だったのに気付いたくらいのものである。どうして渡したかさえ自分でも判らない。
老人はアイスクリームをスプーンで掬って一口。顔が綻んだ。
「おっほっほ。なかなか良く出来ているの」
若干疑わしく思いながら、ルキアスもアイスクリームを一口。声にならない歓声を上げた。最初の試作品より確実に向上している。
暫く二人で黙々とアイスクリームを食べる。のんびりしていたら融けてしまうから。
そして食べ終わると老人は言った。
「お前様がルキアスかの?」
「空気を含ませるんだったよね……」
リュミアが風魔法で撹拌するのを思い出して独りごち、代替手段を考えてみる。
使える風関係の生活魔法は『ふいご』のみ。これは道具としてのふいごを魔法で実現したようなもので、水面を吹いても幾らかの波が立つだけになる。撹拌に使うには甚だ心許ない。
また、水関係の生活魔法は『湧水』を除けば『水掻き』だけ。シャルウィの水魔法で望んだ結果を得られなかったとの話だったのに、それより遥かに弱い魔法でどうにかなるとは思えない。
(泡立て器を用意しなくちゃ)
ここはもう腕力勝負しかない。泡立て器までを自作している場合ではないので買って来る。
アイスクリームの素は失敗したのを融かして使う。問題は空気を含めるかだけだからわざわざ新しい牛乳を煮詰めることもない。
左手で鍋を傾け、『冷却』開始。右手で泡立て器を必死に動かす。どの程度頑張れば良いのか判らないのが辛いところだ。
「ほうほう。氷菓子じゃの」
固まりかけて重くなった泡立て器を笑い出しそうになる腕で必死に掻き交ぜていたルキアスだが、声に驚いたせいであっさり限界を超えた。止まった手は直ぐには動かせそうにない。
その右腕で額の汗を拭い、荒い息を吐きながら振り返る。そこには白い顎髭を湛えた老境の男が立っていた。
「もう出来上がったのかの?」
「どうなんでしょう?」
ルキアスは小首を傾げた。撹拌の塩梅が判らない。固まってはいるので出来上がっていると見なせば見なせないこともない。
そんなルキアスの困惑を見て取ったのか、老人が「ほっほっほ」と楽しげに笑う。
「何、食べてみれば判るだろうの」
「それもそうですね……。それじゃ、何か器があったら貸して貰えますか?」
老人は疑う様子も無く『収納』から器を取り出して差し出した。
ルキアスの方も自然にそれを受け取ってアイスクリームを半分盛って「どうぞ」と老人に返す。そして自らも器を取り出して残りのアイスクリームを盛る。
「催促したようで悪いの」
「あ、いえ……」
ルキアスは半ば無意識で老人にアイスクリームを渡していた。だから催促された意識が無いのだ。言われて初めてそんな状況だったのに気付いたくらいのものである。どうして渡したかさえ自分でも判らない。
老人はアイスクリームをスプーンで掬って一口。顔が綻んだ。
「おっほっほ。なかなか良く出来ているの」
若干疑わしく思いながら、ルキアスもアイスクリームを一口。声にならない歓声を上げた。最初の試作品より確実に向上している。
暫く二人で黙々とアイスクリームを食べる。のんびりしていたら融けてしまうから。
そして食べ終わると老人は言った。
「お前様がルキアスかの?」
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