282 / 627
282 飛べるようになった?
しおりを挟む
「こんなもんかな」
ルキアスは試し撃ちを切り上げた。
「もういいのか?」
「うん。こなせるようにじゃなくて、感覚を掴むだけだから。それに流れ弾がちょっと怖いんだ」
「流れ弾?」
「威力のある弾丸だと見えない遠くまで飛んで誰かに当たったりしそうで」
的を上に外した弾丸は竹林のかなり奥の竹を揺らした。
「あー、確かにそうだ。この階層の探索者は防具も頼りないから万が一当たったら洒落にならないな」
そう答えるザネクは何故か身体が左右に揺れている。ルキアスはその動きを瞳を左右させて追っていたが、不審に過ぎた。
「ところでザネク、何で揺れてるの?」
ザネクは足下を指差すことで応えた。ルキアスがその足下を見れば、『傘』らしき輪郭線がザネクの足の下で小さく光っている。
「『傘』?」
「おう。こうやって地面に押し付けたら立ち止まってても練習になるからな」
「そうなんだ?」
「何、きょとんとしてんだ。ルキアスの話があったから思い付いた方法だぞ」
ルキアスはザネクに雪の上を『傘』で歩いた話をベクロテまでの道中の雑談で話していた。ルキアス自身は「そうだっけ?」と忘れる程度の軽い話である。
「そうなんだ」
ルキアスはそんな話まで憶えていたのかと益々感心するが、それはそれとして、ザネクの『傘』の様子も気になった。
「もしかしてもう飛べるようになった?」
するとザネクがにやりと笑う。
「見てろよ」
ザネクは一旦『傘』を消し、地面から僅かに浮いた位置で上に向けて再度差す。そしてへっぴり腰になりながらも上に乗った。そのへっぴり腰が少し恥ずかしかったのか顔を赤らめる。
「ま、まあ、まだ乗るのは上手くねぇし、まだルキアスみたいに内側にも乗れないが、外側なら行けるぜ」
「ほんと!? でもいつの間に……?」
「そりゃ、ルキアスが蒸気銃を改造してる間だ」
「そっか。そうだよね……」
ルキアスはまたがっくりと肩を落とした。とんだところで差を付けられた気分だ。
ともあれここでの用は済んだ。後は帰るのみだ。ザネクは『傘』に乗ったまま帰路に就く。
ただ、その速度はルキアスがゆっくり、時に立ち止まって合わせなければならないほどに遅かった。実用にはもう少しのようだ。
ルキアスは試し撃ちを切り上げた。
「もういいのか?」
「うん。こなせるようにじゃなくて、感覚を掴むだけだから。それに流れ弾がちょっと怖いんだ」
「流れ弾?」
「威力のある弾丸だと見えない遠くまで飛んで誰かに当たったりしそうで」
的を上に外した弾丸は竹林のかなり奥の竹を揺らした。
「あー、確かにそうだ。この階層の探索者は防具も頼りないから万が一当たったら洒落にならないな」
そう答えるザネクは何故か身体が左右に揺れている。ルキアスはその動きを瞳を左右させて追っていたが、不審に過ぎた。
「ところでザネク、何で揺れてるの?」
ザネクは足下を指差すことで応えた。ルキアスがその足下を見れば、『傘』らしき輪郭線がザネクの足の下で小さく光っている。
「『傘』?」
「おう。こうやって地面に押し付けたら立ち止まってても練習になるからな」
「そうなんだ?」
「何、きょとんとしてんだ。ルキアスの話があったから思い付いた方法だぞ」
ルキアスはザネクに雪の上を『傘』で歩いた話をベクロテまでの道中の雑談で話していた。ルキアス自身は「そうだっけ?」と忘れる程度の軽い話である。
「そうなんだ」
ルキアスはそんな話まで憶えていたのかと益々感心するが、それはそれとして、ザネクの『傘』の様子も気になった。
「もしかしてもう飛べるようになった?」
するとザネクがにやりと笑う。
「見てろよ」
ザネクは一旦『傘』を消し、地面から僅かに浮いた位置で上に向けて再度差す。そしてへっぴり腰になりながらも上に乗った。そのへっぴり腰が少し恥ずかしかったのか顔を赤らめる。
「ま、まあ、まだ乗るのは上手くねぇし、まだルキアスみたいに内側にも乗れないが、外側なら行けるぜ」
「ほんと!? でもいつの間に……?」
「そりゃ、ルキアスが蒸気銃を改造してる間だ」
「そっか。そうだよね……」
ルキアスはまたがっくりと肩を落とした。とんだところで差を付けられた気分だ。
ともあれここでの用は済んだ。後は帰るのみだ。ザネクは『傘』に乗ったまま帰路に就く。
ただ、その速度はルキアスがゆっくり、時に立ち止まって合わせなければならないほどに遅かった。実用にはもう少しのようだ。
1
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる