生活魔法は万能です

浜柔

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274 三〇〇度から

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 ザネクが『傘』に乗れるまでには少し練習が必要そうなので、ルキアスはその時間も使って蒸気銃の試し撃ちを進める。
 竹を切り倒して適当な長さに切り揃えて的にするのはいつもの通り。的を適当な距離に置き、蒸気銃を構える。蒸気タンクに注水。レバーを押し込んでタンクの噴出口を栓棒で塞ぐ。弾丸を装填口に入れるが、まだ銃身には送らない。
 蒸気タンクの『加熱』開始。直後に続けて鉄製カバー、銃身、栓棒などのタンク周辺の『冷却』を始める。
 『加熱』途中で少し『冷却』を弱めた。少し冷えすぎて手に冷たさを感じたための調整だ。
 一発目の温度は普段使っていた三〇〇度。蒸気の準備が出来たところでレバーを動かし、弾丸を銃身へと装填する。
 そして狙いを定めて発射。弾丸は的に命中した。

「あれ?」

 事は順調に進んだが、ルキアスは手応えを弱く感じた。

「威力が出てないよね……」

 蒸気銃をしげしげと見る。装填口も開けてみる。すると中に何となくテカりがある。竹の葉を差し込んで撫でてみると、テカりが光沢に変わった。微かな結露があったのだ。これの起きた理由を考える。
 蒸気以外の可能性を探すのは不可能だった。それにもう一つはっきりした事がある。

(冷やしたら威力が落ちるんだ)

 気付いてみれば何て事無い。蒸気が冷えれば圧力が下がり、弾丸を押す力が減る。その一方で一部が水にまで戻ってしまい、銃の内部に結露してしまうのだ。

(それじゃ、その分温度を上げればいいよね)

 三〇〇度に止めているのは暴発の懸念もさることながら、木製パーツの発火の懸念があったからだ。『冷却』したならその発火の懸念が無くなる。勿論、温度を上げれば暴発や蒸気タンクの破損の懸念が残る。だが威力を上げる目標の前には避けては通れない部分であり、躊躇う理由にはなり得ない。
 ルキアスは一〇度ずつ上げて実験を繰り返す。併せて『冷却』範囲も調整する。むやみに『冷却』すれば威力が落ちるので、手が触れる銃床や蒸気タンクのカバーが熱くならない範囲にした。
 三一〇度にするだけで『冷却』で落ちた威力を補って余りある威力を得られた。
 三五〇度では八割増しの威力となった。

「おー、すげー」

 いつの間にやらザネクがルキアスの後で額に手を翳しながら眺めていた。ザネクにも威力が上がっているのが判ったようだ。

「あ、ザネク。ザネクは『傘』に乗れるようになったの?」
「どうにかな。『傘』が割れちまったんで、飛ぶのはまだお預けだ」
「それは残念だね……」
「まあな。ルキアスの方はどうなんだ? かなり威力が増してたようだが」
「うん。だけどちょっと引き金が壊れそうだから今日はここまでかな」

 三五〇度まで上げた時、栓棒のストッパーが軋む感じがしたのだ。
 引き金も重くなったので、これ以上威力を上げようと思うなら、ここも改造が必要であった。
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