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246 あれは『傘』
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新たに隠し部屋らしき場所を見付けた。壁を叩いて確かめてみれば、前回と同じく左下と右下で音が違った。同じ構造のようだ。
「危ないからリュミアさんとエリリースは離れてて」
「わたくしもお手伝いいたしますわ」
「それじゃ……」
ルキアスは折角だからお願いしようかと言い掛けて止めた。やはり初見では危険だ。
「……ううん。やっぱり離れて待ってて。ザネク、お願い」
「おう」
ザネクは左下の仕掛けを押し込んだら直ぐに壁から離れる。リュミアとエリリースがまだ壁の高さ分程度しか離れていない場所から見ていたので、両手を広げて追いやる仕草で離れるよう促す。
「もっと離れてくれ。ここじゃまだ危ない」
「そんなに離れる……の?」
「壁の高さの倍は離れなきゃな」
「それって……」
リュミアはそれで何となく何が起きるか察したらしい。エリリースもリュミアが素直に離れるので付いて行く。
一方、ルキアスは右下の仕掛けを動かした後、『傘』に乗って天井付近へと上がる。
壁から離れてまた壁へと向いたエリリースが目を丸くする。
「か、かかか彼は、い、いいいかにして飛んでらっしゃるのですか!?」
「エリリースには言ってなかったな……」
ザネクは記憶を辿ってみるが、自らが話したのは同じ家に住む兄のガノスとリュミアの二人だけだった。ルキアスが知らない所で話していなければ聞いていないだろう。
「あれは『傘』だ」
「『傘』? 『傘』でございますか? またまたご冗談を……」
嫌ですわもうと、真実を話すように促すエリリースだったが、ザネクの真剣な表情に気後れを見せる。
「本当なのですか?」
ザネクは小さく頷いた。
「話には聞いていたのだけど……。目の当たりにすると驚かされるわ……ね」
リュミアも瞠目している。今までの常識に無かった光景に、誰もが価値観の揺らぎを感じるのだ。
そんな一同の視線の向こうではルキアスが右上の仕掛けを押し、更に左上の仕掛けを押せる位置まで移動している。
「みんな! 押すよ! 準備はいい!?」
「オッケーだ! 『傘』。二人とも俺の後に」
ザネクはルキアスに返事をして直ぐに『傘』を最大限の広さで前に向けて差し、リュミアとエリリースに『傘』の範囲に入るように促した。二人はその言葉に従ってザネクの後に位置取る。
ルキアスが仕掛けを押し、直ぐにその場から離れる。すると前回と同じように壁が手前へとゆっくり動き出した。それは次第に速度を増し、地響きを起てて床へと倒れ込む。
濛々と立ち籠める砂埃をルキアスは宙に浮いたままで避け、ザネクは『傘』で防ぐ。
暫くして砂埃が落ち着いた向こうには小さな部屋が一つ。そしてその中には箱が一つ在った。
「じゃあ、開けてみよう! もし良かったらエリリースが開ける?」
「え……、遠慮いたしますわ」
初めての経験で得体の知れないものに手を出すのを躊躇ってしまうエリリースだ。
それもそうだだと頷くルキアス。
「それじゃ開けるね」
入っていたのは何の変哲もない鉄の穂先の槍だった。矯めつ眇めつ見ても何の代わり映えもしない。
みんな揃って微妙な表情をした。
「危ないからリュミアさんとエリリースは離れてて」
「わたくしもお手伝いいたしますわ」
「それじゃ……」
ルキアスは折角だからお願いしようかと言い掛けて止めた。やはり初見では危険だ。
「……ううん。やっぱり離れて待ってて。ザネク、お願い」
「おう」
ザネクは左下の仕掛けを押し込んだら直ぐに壁から離れる。リュミアとエリリースがまだ壁の高さ分程度しか離れていない場所から見ていたので、両手を広げて追いやる仕草で離れるよう促す。
「もっと離れてくれ。ここじゃまだ危ない」
「そんなに離れる……の?」
「壁の高さの倍は離れなきゃな」
「それって……」
リュミアはそれで何となく何が起きるか察したらしい。エリリースもリュミアが素直に離れるので付いて行く。
一方、ルキアスは右下の仕掛けを動かした後、『傘』に乗って天井付近へと上がる。
壁から離れてまた壁へと向いたエリリースが目を丸くする。
「か、かかか彼は、い、いいいかにして飛んでらっしゃるのですか!?」
「エリリースには言ってなかったな……」
ザネクは記憶を辿ってみるが、自らが話したのは同じ家に住む兄のガノスとリュミアの二人だけだった。ルキアスが知らない所で話していなければ聞いていないだろう。
「あれは『傘』だ」
「『傘』? 『傘』でございますか? またまたご冗談を……」
嫌ですわもうと、真実を話すように促すエリリースだったが、ザネクの真剣な表情に気後れを見せる。
「本当なのですか?」
ザネクは小さく頷いた。
「話には聞いていたのだけど……。目の当たりにすると驚かされるわ……ね」
リュミアも瞠目している。今までの常識に無かった光景に、誰もが価値観の揺らぎを感じるのだ。
そんな一同の視線の向こうではルキアスが右上の仕掛けを押し、更に左上の仕掛けを押せる位置まで移動している。
「みんな! 押すよ! 準備はいい!?」
「オッケーだ! 『傘』。二人とも俺の後に」
ザネクはルキアスに返事をして直ぐに『傘』を最大限の広さで前に向けて差し、リュミアとエリリースに『傘』の範囲に入るように促した。二人はその言葉に従ってザネクの後に位置取る。
ルキアスが仕掛けを押し、直ぐにその場から離れる。すると前回と同じように壁が手前へとゆっくり動き出した。それは次第に速度を増し、地響きを起てて床へと倒れ込む。
濛々と立ち籠める砂埃をルキアスは宙に浮いたままで避け、ザネクは『傘』で防ぐ。
暫くして砂埃が落ち着いた向こうには小さな部屋が一つ。そしてその中には箱が一つ在った。
「じゃあ、開けてみよう! もし良かったらエリリースが開ける?」
「え……、遠慮いたしますわ」
初めての経験で得体の知れないものに手を出すのを躊躇ってしまうエリリースだ。
それもそうだだと頷くルキアス。
「それじゃ開けるね」
入っていたのは何の変哲もない鉄の穂先の槍だった。矯めつ眇めつ見ても何の代わり映えもしない。
みんな揃って微妙な表情をした。
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