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ルキアスは置かれていた状況とは裏腹に、救出された後もピンピンしていたこともあって漁船の約五〇名の船員を『傘』に乗せることになった。助けられた手前、今回は逃げ出す訳にも行かない。
肌感覚として『傘』に乗せられるのは一度に五人。ルキアスも乗るので四人ずつだ。十数回に分け、漁船の周りを遊覧した。最後に乗せたのが船長だ。
「こいつは絶景だ。こんな光景をいつでも見られるなんて羨ましい」
「高いのは怖くないですか?」
「怖かったらパラシュートでも着けてるぜ」
「パラシュート?」
「おや? 知らないのか? でっかい傘みたいなのにぶら下がってゆっくり地上に降りるヤツなんだが……」
「はい。判りません」
「そうなのか。だが物が無けりゃ説明しづらいな……」
船長は顎髭を撫で付けながら思案する。
「……まあそれはおいとこう。それよりどうだ? 俺の船に来ないか? 何なら見張りだけやってくれるだけでいいぞ」
パラシュートの説明は投げ捨てて、漁船で働かないかとの誘いだ。
「えっと……、折角ですけど……」
ルキアスは視線を彷徨わせ、断り辛くしながらも断った。ダンジョンに来たばかりの頃だったら誘いに乗ったかも知れない。しかし今はここで足踏みはしても立ち止まろうとは思わない。
尤も、ダンジョンに来たばかりの頃の『傘』は乗れるものではなかったから誘われてもいなかっただろう。だからいずれにしても縁の無かった話なのだ。
船長もあまり期待していなかったらしい。訳知り顔で頷く。
「そっか。まあ、そうだろうな」
「判るんですか?」
「こんな誘いに乗るようならこんな場所まで来ないもんさ。食うだけなら第二階層で十分だ」
「確かにそうですね……」
第二階層でゴブリンやコボルトを数狩ればそれなりの収入になる。とは言え、もし先に進む決心をしなかったら未だ第一階層でホーンラビットを狩っていたと考えるルキアスだ。
そしてこの時ふと船長の言葉が気になった。
「あ、そうだ。一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「断っておいて何ですけど、見張りだけって話、顰蹙買いませんか?」
見張りだけではきっと肩身の狭い思いをする。
「ああ、その事か。それはそうでもないぞ。このくらいの船になったら役割を分担するからな。コックなんて判りやすくないか? 自分で五〇人分の料理を作るのを考えたら専属でなけりゃ手が回らないだろ?」
「確かに」
「まあ生憎の人手不足だから大抵のヤツが幾つか役割を兼任してるがな」
「え? 五〇人も居るのに人手不足なんです?」
「この規模の船なら乗組員が一〇〇人居てもおかしくないぞ」
「倍?」
「半分の人員で回しているようなものだから、仕事が倍ってことになるな」
「大変そう……」
情けない顔をしながら「断っておいて良かった」と思ったりもするルキアスである。船長はこの時のルキアスの顔がツボに填ったのか腹を抱えて笑った。
翌日からもルキアスとザネクは第五階層。危険な目に遭ったばかりなのに性懲りもなくだ。
少し違いがあるのはザネクが音響閃光弾を仕入れて来ていることだろう。一発一万ダールで乱発できる値段ではないので、いざと言う時のためである。
ただ使う機会は訪れなかった。警戒をこれまでより遥かに厳にしたことと、いつでも逃げられる態勢を整えつつ宝箱を探して発掘したことによる。
そうして幾つか見付けた宝箱の中身は、着火の魔道具、ランプの魔道具、鏡と言った生活魔法で代用可能な品物が殆どだった。売っても大した金額にならない。唯一見付かった設計書も疾うに買取対象から外された着火の魔道具のものであった。
肌感覚として『傘』に乗せられるのは一度に五人。ルキアスも乗るので四人ずつだ。十数回に分け、漁船の周りを遊覧した。最後に乗せたのが船長だ。
「こいつは絶景だ。こんな光景をいつでも見られるなんて羨ましい」
「高いのは怖くないですか?」
「怖かったらパラシュートでも着けてるぜ」
「パラシュート?」
「おや? 知らないのか? でっかい傘みたいなのにぶら下がってゆっくり地上に降りるヤツなんだが……」
「はい。判りません」
「そうなのか。だが物が無けりゃ説明しづらいな……」
船長は顎髭を撫で付けながら思案する。
「……まあそれはおいとこう。それよりどうだ? 俺の船に来ないか? 何なら見張りだけやってくれるだけでいいぞ」
パラシュートの説明は投げ捨てて、漁船で働かないかとの誘いだ。
「えっと……、折角ですけど……」
ルキアスは視線を彷徨わせ、断り辛くしながらも断った。ダンジョンに来たばかりの頃だったら誘いに乗ったかも知れない。しかし今はここで足踏みはしても立ち止まろうとは思わない。
尤も、ダンジョンに来たばかりの頃の『傘』は乗れるものではなかったから誘われてもいなかっただろう。だからいずれにしても縁の無かった話なのだ。
船長もあまり期待していなかったらしい。訳知り顔で頷く。
「そっか。まあ、そうだろうな」
「判るんですか?」
「こんな誘いに乗るようならこんな場所まで来ないもんさ。食うだけなら第二階層で十分だ」
「確かにそうですね……」
第二階層でゴブリンやコボルトを数狩ればそれなりの収入になる。とは言え、もし先に進む決心をしなかったら未だ第一階層でホーンラビットを狩っていたと考えるルキアスだ。
そしてこの時ふと船長の言葉が気になった。
「あ、そうだ。一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「断っておいて何ですけど、見張りだけって話、顰蹙買いませんか?」
見張りだけではきっと肩身の狭い思いをする。
「ああ、その事か。それはそうでもないぞ。このくらいの船になったら役割を分担するからな。コックなんて判りやすくないか? 自分で五〇人分の料理を作るのを考えたら専属でなけりゃ手が回らないだろ?」
「確かに」
「まあ生憎の人手不足だから大抵のヤツが幾つか役割を兼任してるがな」
「え? 五〇人も居るのに人手不足なんです?」
「この規模の船なら乗組員が一〇〇人居てもおかしくないぞ」
「倍?」
「半分の人員で回しているようなものだから、仕事が倍ってことになるな」
「大変そう……」
情けない顔をしながら「断っておいて良かった」と思ったりもするルキアスである。船長はこの時のルキアスの顔がツボに填ったのか腹を抱えて笑った。
翌日からもルキアスとザネクは第五階層。危険な目に遭ったばかりなのに性懲りもなくだ。
少し違いがあるのはザネクが音響閃光弾を仕入れて来ていることだろう。一発一万ダールで乱発できる値段ではないので、いざと言う時のためである。
ただ使う機会は訪れなかった。警戒をこれまでより遥かに厳にしたことと、いつでも逃げられる態勢を整えつつ宝箱を探して発掘したことによる。
そうして幾つか見付けた宝箱の中身は、着火の魔道具、ランプの魔道具、鏡と言った生活魔法で代用可能な品物が殆どだった。売っても大した金額にならない。唯一見付かった設計書も疾うに買取対象から外された着火の魔道具のものであった。
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