生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
236 / 627

236 遊覧

しおりを挟む
 ルキアスは置かれていた状況とは裏腹に、救出された後もピンピンしていたこともあって漁船の約五〇名の船員を『傘』に乗せることになった。助けられた手前、今回は逃げ出す訳にも行かない。
 肌感覚として『傘』に乗せられるのは一度に五人。ルキアスも乗るので四人ずつだ。十数回に分け、漁船の周りを遊覧した。最後に乗せたのが船長だ。

「こいつは絶景だ。こんな光景をいつでも見られるなんて羨ましい」
「高いのは怖くないですか?」
「怖かったらパラシュートでも着けてるぜ」
「パラシュート?」
「おや? 知らないのか? でっかい傘みたいなのにぶら下がってゆっくり地上に降りるヤツなんだが……」
「はい。判りません」
「そうなのか。だが物が無けりゃ説明しづらいな……」

 船長は顎髭を撫で付けながら思案する。

「……まあそれはおいとこう。それよりどうだ? 俺の船に来ないか? 何なら見張りだけやってくれるだけでいいぞ」

 パラシュートの説明は投げ捨てて、漁船で働かないかとの誘いだ。

「えっと……、折角ですけど……」

 ルキアスは視線を彷徨わせ、断り辛くしながらも断った。ダンジョンに来たばかりの頃だったら誘いに乗ったかも知れない。しかし今はここで足踏みはしても立ち止まろうとは思わない。
 尤も、ダンジョンに来たばかりの頃の『傘』は乗れるものではなかったから誘われてもいなかっただろう。だからいずれにしても縁の無かった話なのだ。
 船長もあまり期待していなかったらしい。訳知り顔で頷く。

「そっか。まあ、そうだろうな」
「判るんですか?」
「こんな誘いに乗るようならこんな場所まで来ないもんさ。食うだけなら第二階層で十分だ」
「確かにそうですね……」

 第二階層でゴブリンやコボルトを数狩ればそれなりの収入になる。とは言え、もし先に進む決心をしなかったら未だ第一階層でホーンラビットを狩っていたと考えるルキアスだ。
 そしてこの時ふと船長の言葉が気になった。

「あ、そうだ。一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「断っておいて何ですけど、見張りだけって話、顰蹙買いませんか?」

 見張りだけではきっと肩身の狭い思いをする。

「ああ、その事か。それはそうでもないぞ。このくらいの船になったら役割を分担するからな。コックなんて判りやすくないか? 自分で五〇人分の料理を作るのを考えたら専属でなけりゃ手が回らないだろ?」
「確かに」
「まあ生憎の人手不足だから大抵のヤツが幾つか役割を兼任してるがな」
「え? 五〇人も居るのに人手不足なんです?」
「この規模の船なら乗組員が一〇〇人居てもおかしくないぞ」
「倍?」
「半分の人員で回しているようなものだから、仕事が倍ってことになるな」
「大変そう……」

 情けない顔をしながら「断っておいて良かった」と思ったりもするルキアスである。船長はこの時のルキアスの顔がツボに填ったのか腹を抱えて笑った。




 翌日からもルキアスとザネクは第五階層。危険な目に遭ったばかりなのに性懲りもなくだ。
 少し違いがあるのはザネクが音響閃光弾を仕入れて来ていることだろう。一発一万ダールで乱発できる値段ではないので、いざと言う時のためである。
 ただ使う機会は訪れなかった。警戒をこれまでより遥かに厳にしたことと、いつでも逃げられる態勢を整えつつ宝箱を探して発掘したことによる。
 そうして幾つか見付けた宝箱の中身は、着火の魔道具、ランプの魔道具、鏡と言った生活魔法で代用可能な品物が殆どだった。売っても大した金額にならない。唯一見付かった設計書も疾うに買取対象から外された着火の魔道具のものであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...