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231 身動きできない
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「ルキアぁぁス!」
ザネクは手を伸ばすがルキアスは既に遠く、その手は宙を切る。咄嗟に『収納』から手投げ爆雷を取り出したものの、次の瞬間には奥歯を噛み締めて『収納』に戻した。
爆雷は相手を区別しない。投げる間にルキアスが海中に引き込まれたら命取りだ。水中で爆圧を受けてしまえばルキアスの身体は一溜まりもないだろう。
しかしここでザネクは希望となる声を聞いた。
「『傘』!」
ルキアスは海中に引き込まれる寸前で『傘』を差すのに成功した。咄嗟と言うよりも条件反射に近い。
ダンジョンタワーの地下が水没した時にしたように『傘』に空気を溜めて息を繋ぐ。幸運なのはクラーケンには未だ引きずり回されるだけで殺しに掛かられてはいないこと。この辺りは第二階層の魔物に通じるものがある。逆に不運なのは激しい動きで『傘』の中が波立ち、折角溜めた空気が零れてしまうことだ。『傘』を徐々に小さくしながら空気を手繰り寄せなければならない。
そうして今はまだ息を繋ぐことだけは叶っている。だが。
(身動きできない!)
腰から脚に掛けて巻き付く太さが人の胴体ほどもある足は押しても引いてもビクともしない。運良く両腕がフリーだったのでナイフを取り出してクラーケンに切り付ける。だが表面が微かに切れただけ。それどころか……。
(あっ! ナイフが!)
ナイフを水流に掠われた。掠われる途中のナイフで怪我をしなかったのは不幸中の幸いだろう。だがルキアスとって逃げ出す術が一つ失われたことの慰めには程遠い。
一方、ザネクは剣を抜いて即応体勢を取りつつ、クラーケンをどう誘き寄せるか思案する。誘き寄せたところでルキアスを掠った個体が来るとは限らないが、海の中まで追い掛けて行けない以上、他に手立てが無い。
クラーケンは狙い澄まして襲って来たように見えた。何かに引き寄せられたと考えるのが自然だ。であるならばと、ザネクは状況をおさらいする。魔物が襲う相手を見付けるのには、目視、匂い、音が主な要素だ。しかし海中から海上を見たり、海上の臭いを嗅いだりはほぼ不可能だろう。だとするなら音だ。そしてはっきりとした音を立てていたのはルキアスのハンマーだけ。
何となくルキアスがハンマーを振り下ろしていた場所を見れば、ルキアスのハンマーが落ちている。慌てて忘れたに違いない。
「同じ事をするのが一番可能性高いよな……」
ザネクはハンマーを拾い上げ、ルキアスが砕いていた場所を打ち付けた。
ザネクは手を伸ばすがルキアスは既に遠く、その手は宙を切る。咄嗟に『収納』から手投げ爆雷を取り出したものの、次の瞬間には奥歯を噛み締めて『収納』に戻した。
爆雷は相手を区別しない。投げる間にルキアスが海中に引き込まれたら命取りだ。水中で爆圧を受けてしまえばルキアスの身体は一溜まりもないだろう。
しかしここでザネクは希望となる声を聞いた。
「『傘』!」
ルキアスは海中に引き込まれる寸前で『傘』を差すのに成功した。咄嗟と言うよりも条件反射に近い。
ダンジョンタワーの地下が水没した時にしたように『傘』に空気を溜めて息を繋ぐ。幸運なのはクラーケンには未だ引きずり回されるだけで殺しに掛かられてはいないこと。この辺りは第二階層の魔物に通じるものがある。逆に不運なのは激しい動きで『傘』の中が波立ち、折角溜めた空気が零れてしまうことだ。『傘』を徐々に小さくしながら空気を手繰り寄せなければならない。
そうして今はまだ息を繋ぐことだけは叶っている。だが。
(身動きできない!)
腰から脚に掛けて巻き付く太さが人の胴体ほどもある足は押しても引いてもビクともしない。運良く両腕がフリーだったのでナイフを取り出してクラーケンに切り付ける。だが表面が微かに切れただけ。それどころか……。
(あっ! ナイフが!)
ナイフを水流に掠われた。掠われる途中のナイフで怪我をしなかったのは不幸中の幸いだろう。だがルキアスとって逃げ出す術が一つ失われたことの慰めには程遠い。
一方、ザネクは剣を抜いて即応体勢を取りつつ、クラーケンをどう誘き寄せるか思案する。誘き寄せたところでルキアスを掠った個体が来るとは限らないが、海の中まで追い掛けて行けない以上、他に手立てが無い。
クラーケンは狙い澄まして襲って来たように見えた。何かに引き寄せられたと考えるのが自然だ。であるならばと、ザネクは状況をおさらいする。魔物が襲う相手を見付けるのには、目視、匂い、音が主な要素だ。しかし海中から海上を見たり、海上の臭いを嗅いだりはほぼ不可能だろう。だとするなら音だ。そしてはっきりとした音を立てていたのはルキアスのハンマーだけ。
何となくルキアスがハンマーを振り下ろしていた場所を見れば、ルキアスのハンマーが落ちている。慌てて忘れたに違いない。
「同じ事をするのが一番可能性高いよな……」
ザネクはハンマーを拾い上げ、ルキアスが砕いていた場所を打ち付けた。
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