生活魔法は万能です

浜柔

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224 位置を知るには

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 ダンジョン内でどうやって現在位置を知るかが問題だ。ルキアスはラビット丼を食べながら思い悩んでいた。
 最近のルキアスはラビット丼をよく食べる。探索でそれなりに疲れた後で時間を掛けて食事の用意をするのが億劫になったのだ。この時ラビット丼を選ぶのは、安いのもあるが癖になる味だからでもある。それにもっと値の張る料理を食べてもラビット丼より美味しいとは思えないことが多く、冒険するよりラビット丼が確実だなんて思いもする。
 ラビット丼にどうしてこれ程までに心を奪われるかは大いなる難問だ。
 いやそれはどうでも良くて、今はダンジョンで如何に現在位置を把握するかだ。
 ルキアスは改めて考え直す。するとダンジョンの壁までの往復を思い出し、かなり危うい事をしていたと今更ながらに怖くなった。よくよく考えれば第一階層でも螺旋回廊の柱からの方角を完全に見失う可能性があったのだ。
 今後はそんな危ういことにならないように現在位置の把握を心懸けようと考える。

「そのための魔道具ならあるぞ」

 悩めるルキアスにそう言ったのはロマ。彼はルキアスがラビット丼をぱくついている前の席に所に座り、難しい顔になっていたルキアスの悩み事を聞き出したのだ。

「え? あるの?」
「あるぞ。使うヤツが少ないもんで店でも隅の方に追いやられてるがな」
「それってどうして?」
「使い勝手が悪いんだ。座標を表示するだけだからなぁ」
「座標が判れば大丈夫なんじゃ?」
「第五階層までならな。真っ直ぐ進めるから座標が判れば出口に戻れる。しかしそれより下は座標だけ判ってもどうにもならない。地図がどうしても必要だ。で、地図が有ったら大抵どうにかなる」
「そうなんだ……。でも地図を描くときに必要なんじゃ?」
「地図なら五〇階層まではここで売られてるし、それより下はその魔道具が使えなくてな」
「使えなくなるってまた何で?」
「何でかは誰も知らないさ。しかしダンジョンで見付かった設計図で作られたものらしいから、ダンジョンの主が居るんだったらあんまりお気楽に深く潜って欲しくはないんじゃないか?」
「確かに……」

 ダンジョンを人の家に譬えるなら五〇階層までが庭でそれ以降が母屋のようなものなのだろう。

「でも第五階層までで使えるなら、どうしてみんな魔道具を使わないのかな?」
「低階層で生活しているヤツは帰り道の見えない所までは行かないもんだぜ? もし行くとしても案外地形を憶えてるものだし、地形の判りにくい第二階層でも目印を付けてればいいことだしな。いちいち座標なんて調べないさ。ルキアスもだろ?」
「そう、だね……」

 ルキアス自身が使っていなかったのだから無為な質問だった。実際、今まで座標が判らなくても何とかなってしまっていて、今回第五階層で初めて気になったのだ。結果、尋ね返されて口籠もる羽目になったのであった。
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