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217 救命胴衣
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「救命胴衣を作るって、当てはあるのか?」
「上手く出来るか判らないけど、第一階層に行けば何とかなるかも」
ルキアスはザネクの問いにのほほんと答えた。
要はどの向きから水に落ちても浮けば良い。となれば、それそのものが水より軽い素材であれば良いのだ。
「一応コルクと竹を考えてるけど……」
「いや、買えば良くないか?」
「え……」
ルキアスは瞠目した。
「その発想は無かった!」
「そこはさすがに持てよ。最近の稼ぎなら救命胴衣くらい買えるだろ。幾ら何でも貧乏性が過ぎるぞ?」
「あははは……」
ルキアスは笑って誤魔化した。確かに最近はそこそこ稼いでいる。第三階層、第四階層は魔物の強さの割に魔石が大きい上、第四階層に至っては上から一方的に狩れるので数もこなせて実入りが良かった。地上を歩いていたらこうは行かなかっただろうから、普通に狩りをしていたのなら魔石の大きさなりの難易度なのかも知れない。
魔物を狩ったのは宝箱の出現ポイント、あるいはそれらしい場所のみだ。そこで倒した魔物の魔石を回収するだけで、三人で割っても一人当たり一〇万ダールに達した日もあった。
だから暫し考える。お金が勿体ないと言う気持ちはどうしても在る。『傘』で間に合わせられるものなら間に合わせたい。しかし水に落ちた時まで適切に『傘』を張れるとまでは自分を信じられないので『傘』に頼らない術が必要だ。その時に自作で性能の怪しい救命胴衣で果たして通用するか。いや、もしかすると自由にカスタマイズできる自作の方がより良いものになる可能性が無い訳ではない。
(でも自作は時間が掛かるか……)
救命胴衣作りに何日も掛かっては本末転倒だ。その数日間を探索に当てれば購入資金くらい調達可能なのだから。
「買いに行こうか?」
「賛成だ」
そうして二人は地下一階の商店街へとやって来た。第五階層のように水対策が必要な場所があるのだから、救命胴衣を売っている店も当然のように在る。
そこには幾つかの種類が陳列されていた。ルキアスが目論んだようなコルクを布の間に挟んだタイプや竹を繋げたタイプもある。竹は節を抜かなければ浮きになるので考えやすい。その代わりに嵩張るものの安価だ。他には革を貼り合わせて空気を詰めて使うタイプもある。使わない時は空気を抜けば嵩張らないので使い勝手が良さそうに見える。
「それが気になりますか?」
ルキアスがじっと革の救命胴衣を眺めていたら店主に話し掛けられた。
「はい。凄く良さそうですよね?」
「勿論上手く使えればとてもいいものですよ」
ルキアスは店主の言い方に引っ掛かった。
「上手く使えないとどうなるんです?」
「空気が抜けて……、その後はまあ……」
「どうしてそんなことに?」
「空気口が密閉し難いんですよね」
空気を入れるには穴が必要だ。その穴を密閉しなければ空気が抜ける。そしてそれを密閉できるかどうか半ば運任せなのだ。
ルキアスはその解決策を見付けられるなら革製を使いたいとは思う。しかし……。
「竹のヤツください」
「毎度あり」
ルキアスは最も安く二万ダールで買える竹製の救命胴衣を購入した。
「上手く出来るか判らないけど、第一階層に行けば何とかなるかも」
ルキアスはザネクの問いにのほほんと答えた。
要はどの向きから水に落ちても浮けば良い。となれば、それそのものが水より軽い素材であれば良いのだ。
「一応コルクと竹を考えてるけど……」
「いや、買えば良くないか?」
「え……」
ルキアスは瞠目した。
「その発想は無かった!」
「そこはさすがに持てよ。最近の稼ぎなら救命胴衣くらい買えるだろ。幾ら何でも貧乏性が過ぎるぞ?」
「あははは……」
ルキアスは笑って誤魔化した。確かに最近はそこそこ稼いでいる。第三階層、第四階層は魔物の強さの割に魔石が大きい上、第四階層に至っては上から一方的に狩れるので数もこなせて実入りが良かった。地上を歩いていたらこうは行かなかっただろうから、普通に狩りをしていたのなら魔石の大きさなりの難易度なのかも知れない。
魔物を狩ったのは宝箱の出現ポイント、あるいはそれらしい場所のみだ。そこで倒した魔物の魔石を回収するだけで、三人で割っても一人当たり一〇万ダールに達した日もあった。
だから暫し考える。お金が勿体ないと言う気持ちはどうしても在る。『傘』で間に合わせられるものなら間に合わせたい。しかし水に落ちた時まで適切に『傘』を張れるとまでは自分を信じられないので『傘』に頼らない術が必要だ。その時に自作で性能の怪しい救命胴衣で果たして通用するか。いや、もしかすると自由にカスタマイズできる自作の方がより良いものになる可能性が無い訳ではない。
(でも自作は時間が掛かるか……)
救命胴衣作りに何日も掛かっては本末転倒だ。その数日間を探索に当てれば購入資金くらい調達可能なのだから。
「買いに行こうか?」
「賛成だ」
そうして二人は地下一階の商店街へとやって来た。第五階層のように水対策が必要な場所があるのだから、救命胴衣を売っている店も当然のように在る。
そこには幾つかの種類が陳列されていた。ルキアスが目論んだようなコルクを布の間に挟んだタイプや竹を繋げたタイプもある。竹は節を抜かなければ浮きになるので考えやすい。その代わりに嵩張るものの安価だ。他には革を貼り合わせて空気を詰めて使うタイプもある。使わない時は空気を抜けば嵩張らないので使い勝手が良さそうに見える。
「それが気になりますか?」
ルキアスがじっと革の救命胴衣を眺めていたら店主に話し掛けられた。
「はい。凄く良さそうですよね?」
「勿論上手く使えればとてもいいものですよ」
ルキアスは店主の言い方に引っ掛かった。
「上手く使えないとどうなるんです?」
「空気が抜けて……、その後はまあ……」
「どうしてそんなことに?」
「空気口が密閉し難いんですよね」
空気を入れるには穴が必要だ。その穴を密閉しなければ空気が抜ける。そしてそれを密閉できるかどうか半ば運任せなのだ。
ルキアスはその解決策を見付けられるなら革製を使いたいとは思う。しかし……。
「竹のヤツください」
「毎度あり」
ルキアスは最も安く二万ダールで買える竹製の救命胴衣を購入した。
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