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208 箱
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手応えを手掛かりに泥の中を更に探ると、四角い何かがぽつんと存在する様子だ。
「箱っぽいのが在るよ」
「当たりか?」
「だといいね……」
ルキアスはまだまだ慎重に探る。泥の中に手を突っ込んだ途端に何かに噛み付かれないとも限らない。こんな浅い階層でそんなトラップじみたものが在るとも思えないが、無いとも言い切れない。
(専用のハサミを用意しなくちゃ……)
だが今この場で作れるものでもない。
「もう! まどろっこいわね! いつまでだらだらやってんのよ!」
「あっ!」
慎重に慎重を重ねるルキアスに痺れを切らしたシャルウィが泥の中に手を突っ込んだ。
箱は無事に引き上げられる。ルキアスがバツが悪そうにザネクを見ると、ザネクは失笑を禁じ得ない様子だ。
「開けるわよ」
「あ! ちょっと待って、泥を洗ってから」
ルキアスは勢いのまま箱を開けようとするシャルウィに待ったを掛けた。あまり期待は持てないものの、箱の中に泥が侵入していない可能性だってある。もしもそうだった場合、泥塗れのまま開けては折角無事だった中身までもが泥塗れになってしまう。
「そ、そうね……」
迂闊だったことを反省しつつシャルウィが箱の表面の泥を『湧水』で洗い流す。
出て来たのはありふれた木箱だった。
「なんか、しょぼいわ……」
「この階層じゃこんなもんだろ。むしろ俺は箱が有ったことに驚いたぜ」
「だよね」
「???」
シャルウィにはザネクとルキアスの真意が見えない。第三階層までの宝箱に箱は無く、中身が剥き身で転がっていただなんて、短い言葉で察せる筈もないのだ。
「だけどこれで益々それっぽいよね?」
「だな」
「……あんた達が何言ってるのか判んないんだけど、開けていいのよね?」
「おう」
「うん」
「じゃ、今度こそ開けるわよ」
箱に鍵や留め金のようなものは無い。シャルウィが箱の蓋を持ち上げる。小さくパキンと音が響いたように感じられた。三人して顔を見合わせ、首を傾げ合う。
正体の掴めない音は忘れることにして蓋を開けた。中には真っ赤な液体の入った小瓶が一つ。泥は全く入ってない。木箱の作りからすれば奇跡に近い。しかしそんな奇跡にたまたま出会したと考えるのは楽観的すぎるだろう。必然だと考えれば見えるものもある。先の音は泥の侵入を防ぐ魔法が壊れる音だったに違いない。
「魔法まで掛かってるなんて随分親切だね」
「ほんとにな。で、中身はやっぱり魔法薬だな……」
「え? 神薬じゃないの?」
「こんな真っ赤な神薬なんて聞いたことないぜ。神薬っつったら金色だろ?」
「ああっ!」
シャルウィは見るからにがっかりした様子であった。
「箱っぽいのが在るよ」
「当たりか?」
「だといいね……」
ルキアスはまだまだ慎重に探る。泥の中に手を突っ込んだ途端に何かに噛み付かれないとも限らない。こんな浅い階層でそんなトラップじみたものが在るとも思えないが、無いとも言い切れない。
(専用のハサミを用意しなくちゃ……)
だが今この場で作れるものでもない。
「もう! まどろっこいわね! いつまでだらだらやってんのよ!」
「あっ!」
慎重に慎重を重ねるルキアスに痺れを切らしたシャルウィが泥の中に手を突っ込んだ。
箱は無事に引き上げられる。ルキアスがバツが悪そうにザネクを見ると、ザネクは失笑を禁じ得ない様子だ。
「開けるわよ」
「あ! ちょっと待って、泥を洗ってから」
ルキアスは勢いのまま箱を開けようとするシャルウィに待ったを掛けた。あまり期待は持てないものの、箱の中に泥が侵入していない可能性だってある。もしもそうだった場合、泥塗れのまま開けては折角無事だった中身までもが泥塗れになってしまう。
「そ、そうね……」
迂闊だったことを反省しつつシャルウィが箱の表面の泥を『湧水』で洗い流す。
出て来たのはありふれた木箱だった。
「なんか、しょぼいわ……」
「この階層じゃこんなもんだろ。むしろ俺は箱が有ったことに驚いたぜ」
「だよね」
「???」
シャルウィにはザネクとルキアスの真意が見えない。第三階層までの宝箱に箱は無く、中身が剥き身で転がっていただなんて、短い言葉で察せる筈もないのだ。
「だけどこれで益々それっぽいよね?」
「だな」
「……あんた達が何言ってるのか判んないんだけど、開けていいのよね?」
「おう」
「うん」
「じゃ、今度こそ開けるわよ」
箱に鍵や留め金のようなものは無い。シャルウィが箱の蓋を持ち上げる。小さくパキンと音が響いたように感じられた。三人して顔を見合わせ、首を傾げ合う。
正体の掴めない音は忘れることにして蓋を開けた。中には真っ赤な液体の入った小瓶が一つ。泥は全く入ってない。木箱の作りからすれば奇跡に近い。しかしそんな奇跡にたまたま出会したと考えるのは楽観的すぎるだろう。必然だと考えれば見えるものもある。先の音は泥の侵入を防ぐ魔法が壊れる音だったに違いない。
「魔法まで掛かってるなんて随分親切だね」
「ほんとにな。で、中身はやっぱり魔法薬だな……」
「え? 神薬じゃないの?」
「こんな真っ赤な神薬なんて聞いたことないぜ。神薬っつったら金色だろ?」
「ああっ!」
シャルウィは見るからにがっかりした様子であった。
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