生活魔法は万能です

浜柔

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202 ツンツン

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「厚かましいですって? むしろこんな美人とお近づきになれたことに感謝するがいいわ! ツンツンするのは髪の毛だけにしないとモテないわよ」
「髪の毛は余計だ! 人の身体的特徴を論って失礼なヤツだな!」

 ザネクは髪の毛がツンツン撥ねているのを気にしているらしい。しかし……。

「ザネク……、今日はちょっと寝癖が酷いよ?」

 ルキアスがツッコミを入れつつ『鏡』をザネクに向けて出した。今日に限ってはどこから見ても寝癖だったのだ。ツンツン撥ねるのがどうにもならなければ多少の寝癖は気にしなくなるものだろう。
 しかし盛大なら話は別だ。実際に目にすればザネクも唖然。

「うおっ……」

 髪を抑えて唸り声を上げる。

「ふふん。ほら見なさい」

 少女が勝ち誇った顔に、ザネクは恨みがましい視線を向けた。

「ところでそろそろ腕を放してくれないかな? もうさっきの他人は居ないよ?」

 ルキアスは少女の手を振り払うのもどうかと思ってそのままにしているが、さすがにずっとこのままは窮屈だ。

「でも放したらあんた達逃げそうじゃない?」
「さっきの人は居なくなってるからもう用は無いでしょ?」
「用なら有るわよ。あたし言ったわよね? あんた達を待ってたって」
「え? それって方便じゃなかったの?」
「それも助かったけど、待ってたのも本当」
「どうして?」
「昨日のあれよ。あんた達のどっちか、空を飛べる天職持ちなんでしょ? それなら第四階層なんて楽勝じゃない? だからあたしも連れてってよ」
「何か『だから』なのか判らないけど、あれは天職じゃないよ」
「どこの誰かも判らないヤツを連れてく訳ないだろ」
「天職じゃなかったら何だってのよ? どこの誰かも判らないって言うなら、あたしはシャルウィ。これでいい?」

 シャルウィと名乗った少女は被り気味だったルキアスとザネクの話を余さず聞いていたらしい。本当に耳は良いようだ。

「名前を訊いてる訳じゃない。目的くらい言え」
「女の子の秘密を聞き出そうっての? あんたほんとにモテないわよ?」
「ウゼー。もう付き合ってらんねぇ……」
「あっ……」

 ザネクはシャルウィの腕を振り払って先に行く。シャルウィの口から戸惑いの声が漏れ、その手が宙を掻く。

「判ったわよ。目的を話せばいいんでしょ?」

 シャルウィは口を尖らせながらも、どこか苦しげに言った。
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