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195 足場
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ザネクは周囲にも目を奔らせて即断する。
「ルキアス、一度引くぞ!」
ザネクが指差したのはクロコダイルの横を通り抜ける方向。ここまで通って来た道だ。
ザネクは後続に三頭が見え隠れしているのを察知していた。ルキアスが体勢を整えるのにもう少し時間が掛かりそうな今、纏めて相手取るのは少々危険。間違いなく倒せはするが、特にルキアスが怪我をする可能性がある。クロコダイル数頭と引き替えに怪我をするのでは明らかに損で、そんなリスクは減らせるものなら減らす方が良い。そして逃げるなら多少の危険を冒しても足場が確実な通って来た道。一頭を牽制するだけで良い今の内に通り過ぎるべきだと考え、ルキアスを急かした。
この時点では膝を突いたままのルキアスは視点が低くて状況が見えていない。だが判らないなりにザネクの指示に従って立ち上がり、ワニを牽制するザネクの横を通ってここまで来た道を急ぐ。
ザネクもルキアスがワニの横を通り過ぎたら直ぐに撤退だ。二人だけのパーティーだから安全確保が最優先なのだ。
二人は入口周辺の草原の端まで引き返した。
「状況が判らなかったんだけど……」
「クロコダイルが他に三頭近付いてた。足場も怪しい状況じゃ分が悪いからな」
「そっか……、そうだよね……」
自分が足を踏み外したせいで振り出しに戻る羽目になり、心苦しく思うルキアスだ。だからこそ考える。
(足場……。安定した足場を確保できたら引き返さなくてもいいんだよね……。あっ!)
ルキアスの脳裏に第三階層でやっていた事が浮かんだ。
「『傘』」
ルキアスは地上すれすれの位置に上を向けて可能な限り平たく特大の『傘』を張った。ザネクは怪訝な顔だ。
「ザネク、ちょっと思い付いたことがあるから、これに乗ってみて」
そう言いながらルキアス自身も『傘』に乗る。ザネクとてルキアス自身が乗るのなら理由が判らなくても拒んだりしない。表情に出る怪訝さを深めながらも乗り込んだ。
「じゃあ、行くよ」
ルキアスは『傘』を腰くらいの高さまで上げた。
「お?」
ザネクが怪訝さを声に出すが、ルキアスは構わず湿地の方へゆるゆると『傘』を動かす。
「おお?」
『傘』は次第に速度を増し、湿地へと突入する。先に通った固い地面の在る場所にだ。
「通れる場所の上だったら万が一落ちても怪我で済むと思うから」
「お、おう?」
ルキアスの説明によく判らない相槌しか返せないザネクだ。こんな状況は見たことも聞いたことも無い。
『傘』は更に速度を増す。
「あれ?」
不意にルキアスが冷や汗を垂らした。しかしそんなルキアスの一言がもっと怖いのは同乗者である。何か問題が有っても自分では対処できないのだ。全てをルキアスに委ねているのを改めて認識させられる。
「どうした!?」
ザネクの声が少し上擦った。
「ちょっと予想外に速度に上がっちゃって……」
「お、おい!?」
「ご、ごめん。今止め……、あ! そっか!」
「今度は何だ!?」
「大丈夫。止まるよ」
ルキアスが言った通りに『傘』は止まった。
『傘』を動かす時は術者との相対速度で動く。『傘』を動かすのに合わせて術者が動く状況では術者の速度との相対速度で動くことになる。動かそうとしたままだと速度がどんどん上乗せされるのだ。
動かそうとしなければ直に止まるが、急減速をしたい場合は反対側に動かす必要がある。
ルキアスはそんな説明をザネクにした。
「先に言え! もう、びっくりした!」
ザネクはちょいおこであった。
「ルキアス、一度引くぞ!」
ザネクが指差したのはクロコダイルの横を通り抜ける方向。ここまで通って来た道だ。
ザネクは後続に三頭が見え隠れしているのを察知していた。ルキアスが体勢を整えるのにもう少し時間が掛かりそうな今、纏めて相手取るのは少々危険。間違いなく倒せはするが、特にルキアスが怪我をする可能性がある。クロコダイル数頭と引き替えに怪我をするのでは明らかに損で、そんなリスクは減らせるものなら減らす方が良い。そして逃げるなら多少の危険を冒しても足場が確実な通って来た道。一頭を牽制するだけで良い今の内に通り過ぎるべきだと考え、ルキアスを急かした。
この時点では膝を突いたままのルキアスは視点が低くて状況が見えていない。だが判らないなりにザネクの指示に従って立ち上がり、ワニを牽制するザネクの横を通ってここまで来た道を急ぐ。
ザネクもルキアスがワニの横を通り過ぎたら直ぐに撤退だ。二人だけのパーティーだから安全確保が最優先なのだ。
二人は入口周辺の草原の端まで引き返した。
「状況が判らなかったんだけど……」
「クロコダイルが他に三頭近付いてた。足場も怪しい状況じゃ分が悪いからな」
「そっか……、そうだよね……」
自分が足を踏み外したせいで振り出しに戻る羽目になり、心苦しく思うルキアスだ。だからこそ考える。
(足場……。安定した足場を確保できたら引き返さなくてもいいんだよね……。あっ!)
ルキアスの脳裏に第三階層でやっていた事が浮かんだ。
「『傘』」
ルキアスは地上すれすれの位置に上を向けて可能な限り平たく特大の『傘』を張った。ザネクは怪訝な顔だ。
「ザネク、ちょっと思い付いたことがあるから、これに乗ってみて」
そう言いながらルキアス自身も『傘』に乗る。ザネクとてルキアス自身が乗るのなら理由が判らなくても拒んだりしない。表情に出る怪訝さを深めながらも乗り込んだ。
「じゃあ、行くよ」
ルキアスは『傘』を腰くらいの高さまで上げた。
「お?」
ザネクが怪訝さを声に出すが、ルキアスは構わず湿地の方へゆるゆると『傘』を動かす。
「おお?」
『傘』は次第に速度を増し、湿地へと突入する。先に通った固い地面の在る場所にだ。
「通れる場所の上だったら万が一落ちても怪我で済むと思うから」
「お、おう?」
ルキアスの説明によく判らない相槌しか返せないザネクだ。こんな状況は見たことも聞いたことも無い。
『傘』は更に速度を増す。
「あれ?」
不意にルキアスが冷や汗を垂らした。しかしそんなルキアスの一言がもっと怖いのは同乗者である。何か問題が有っても自分では対処できないのだ。全てをルキアスに委ねているのを改めて認識させられる。
「どうした!?」
ザネクの声が少し上擦った。
「ちょっと予想外に速度に上がっちゃって……」
「お、おい!?」
「ご、ごめん。今止め……、あ! そっか!」
「今度は何だ!?」
「大丈夫。止まるよ」
ルキアスが言った通りに『傘』は止まった。
『傘』を動かす時は術者との相対速度で動く。『傘』を動かすのに合わせて術者が動く状況では術者の速度との相対速度で動くことになる。動かそうとしたままだと速度がどんどん上乗せされるのだ。
動かそうとしなければ直に止まるが、急減速をしたい場合は反対側に動かす必要がある。
ルキアスはそんな説明をザネクにした。
「先に言え! もう、びっくりした!」
ザネクはちょいおこであった。
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