生活魔法は万能です

浜柔

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「ルキアス! どこ行ってんだ!?」

 ザネクはガーゴイルを前にもたもたするだけで何の役にも立たなかった上、戦いが終わるか終わらないかの内にどこかへ行ってしまったルキアスにおこだった。

「おい、ルキアス! 聞いて……」

 だが岩陰に隠れてしまっていたルキアスが見える場所まで移動したザネクは、その姿を見た途端に言葉を詰まらせる。怒っていたことも忘れ、同情心が先に出る。

「ルキアスそれ……。その、なんだ……。気を落とすな……と言うのは無理だな……。今日はもう引き上げようぜ」

 ルキアスは素直に頷いた。蒸気銃の事がショックでこれ以上は探索を続けられそうにない。
 帰り道。蒸気銃の状態も気が重いが、最初のショックが遠ざかった後は、ガーゴイルを前にして何もできなかったことへの口惜しさが強くなった。お陰でザネクを怒らせてしまったのだ。そう、ザネクが怒っているのに気付かなかった訳ではない。ただあの時はそれ以上に銃が壊れたショックが大きかった。
 しかし銃が壊れたのを受け入れてしまえば、むしろ自分の不甲斐なさにこそ憤りすら覚えてしまう。

(このままじゃ駄目だよね……)

 空飛ぶガーゴイル相手では銃の狙いを定めようにも定まらず、蒸気銃を上に向けて撃つのが怖かった。怖いのはどうにもならない。頭から熱湯を被って目にでも入れば致命的だ。早晩生活に行き詰まってしまう。これを思えばどうしても怖い。
 怖さを回避するには銃を頭より下で撃つか、熱湯を被っても大丈夫なように頭を保護するか、端から蒸気銃を使わないかだ。頭を保護しつつ視界を確保するにはガラスをどうにかする必要があるので現実的ではない。取り得るのはのは残る二つ。
 蒸気銃が壊れたこの機にライフル一本に絞るのが簡単だ。蒸気銃を修理するとしても夜の時間だけを使うのであれば数日間はライフルのみになるのだから、いっそ修理しないのもあり得る訳だ。
 とは言えライフルであっても頭より下、つまりは腰だめで撃てるに越したことはない。その方が銃を振り回す距離が減るので疲れも少なく、対応も速くできる。方針をどうするにしても練習が必要だろう。
 ただ、腰だめでの射撃を練習する間、少なくとも最初の頃にはザネクに不甲斐ない姿を見せ続けることになり、迷惑を掛けることにもなる。今後のザネクとの関係を考えても避けたい事態だ。ついさっきも怒らせたばかりなのだ。
 それに怒る怒らないに拘わらず、ザネクは不甲斐ないルキアスのサポートに動くだろう。すると練習も捗らなくなる。練習が捗らなければザネクとの関係も悪くなる。悪循環が生まれる訳だ。
 だからルキアスは提案する。

「ザネク。ぼくは銃の練習をしなくちゃいけないから、暫く独りで動こうと思うんだ」
「そうか。ルキアスがそうしたいなら……」

 ザネクは歯切れ悪いながらも同意した。
 実のところザネクも懊悩していたのだ。ルキアスが時折全くの役立たずになるのを判っていて、その隙をサポートしようと行動を共にしていながらルキアスの不甲斐なさに声を荒らげてしまった。もしや知らず知らずにルキアスに依存してしまっていたからではないか。自分さえ弓を使えるようになっていたらそうならなかったのではないか。考えれば考えるほどに自らの力不足が立ち塞がる。

「俺も弓の練習をしておくぜ」

 こうして二人は当面の間別行動をすることになった。
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