生活魔法は万能です

浜柔

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177 ガーゴイル

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 ガーゴイルの動きは速くない。その動きに合わせてルキアスが余裕で身体の正面に捉え続けられる程だ。飛ぶ高さもそれほど大きくは変化しない。それでもルキアスはこれまで経験の無い立体的な動きに翻弄される。
 銃をはっきりと上に向けて撃つのは初めての経験だ。そしてこれが奇妙な程に怖い。狙いを定めれば銃が頭より上に行く。これでは何かの都合で熱湯を頭から被ってしまいかねないと頭を過ぎる。その頻度と可能性が最も高いのが引き金を引く時となれば、引き金に添えた指が強ばってしまう。
 ルキアスは苦し紛れに腰だめで引き金を引いた。弾丸はガーゴイルの下に大きく外れる。

「ルキアス! どこに撃ってんだ!」
「ごめん!」

 ルキアスはライフルに持ち替えようと『収納』を開くが、ふと手を止めた。銃を熱を持ったまま入れてしまっては、『収納』に入った他の物品に影響が出る。特に食料。煮えてしまったら目も当てられない。今は『収納』の中身を気にしている場合ではないのだろうが、中には全財産が入っていて、何かが損なわれれば生活に響いてしまう。狩りをする意味も失おうと言うものだ。だから蒸気銃は地面に置いて、ライフルを取り出した。
 そうした隙にガーゴイルはルキアスに狙いを定めたらしい。真っ直ぐルキアスに向けて飛びながら牙を剥く。

「ルキアス、ガーゴイル!」

 ルキアスはザネクの声でガーゴイルから目を離してしまっているのを思い出して振り向くが、それは既に目前まで迫っていた。子犬ほどの大きさでも間近に迫られれば脅威だ。

「うわっ!」

 思わず後退るルキアス。しかしその足下には蒸気銃を置いている。

「痛っ!」

 ゴツンとした音に続いてルキアスが悲鳴を上げる。反射的に足を押さえて蹲ったことでガーゴイルからの攻撃は避けられた。何が幸いするのか判らないものだ。
 ところが直後、少し下の方でガチャンと不吉な音がした。
 ルキアスは足下を見る。蒸気銃が無い。その代わりに岩肌に引っ掻いたような跡が残っている。

(まさか!)

 直ぐに蒸気銃の安否を確かめに行きたい。だが今はそんな場合ではないと、ガーゴイルに視線を戻す。ガーゴイルは旋回してザネクに向かっていた。しかし銃を撃つ訳には行かない。射線がザネクに近すぎる。
 そうしてルキアスがまごまごしている間に、ザネクはガーゴイルが襲って来た瞬間を狙って斬り伏せた。
 ルキアスはこの戦いで何もできなかった。その事にチクンと胸が痛んだ。
 しかしそれはひとまず置いといて、蒸気銃の安否を確かめに行く。
 と、弾倉と蒸気タンクのカバーが見る影もなくなっていた。
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