生活魔法は万能です

浜柔

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176 岩山

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 ザネクは剣を、ルキアスは買った銃を手に探索を続ける。第三階層には灌木も幾らか生えてはいるが、その殆どが岩と土が露出した地面となっている。極めて単調だ。

「何にも無いね……」
「岩山が在るだろ」
「そう言う意味じゃなくって……、あれ? そう言う意味なのかな……」

 ルキアスは首を傾げた。第一階層だって一面草原の場所なら「何にも無い」と言えるだろう。しかし草原ではそうまでは思わないのだから、何か違いがある筈だ。周囲を見回して灌木に目を留める。

(草……)

 木や草が生えているだけで「何にも無い」感覚から遠くなるようだ。となると、やはりザネクの言う通りだろう。

「そう言う意味だったみたい……」
「何だ、それ」

 ザネクはくつくつと笑った。ルキアスの葛藤など知る由もないザネクにはとんだ独り芝居に見えたのだ。
 二人は「何にも無い」中に存在する手近な岩山に登ってみる。ガーゴイルは岩山の上に居ることが多いらしい。
 この時、ルキアスは悩んだ末に自作の銃、即ち蒸気銃に持ち替えた。狩りの時間の意識がそうさせたのだ。
 この「蒸気銃」の呼び方は二挺の銃の区別に迫られたためにルキアス自身がそう呼び慣わすことにしたものだ。買った銃は「ライフル」と呼ぶ。もしも将来的に別の銃を買うようであれば、型式で呼ぶ日が来るかも知れない。
 ともあれ、急峻ではないが所々で段差の大きい岩を乗り越えつつ、岩山の中腹まで登った。

「魔物は見当たらないね……」
「いや、居るぞ。あそこ」

 ザネクが山肌の一点を指差した。しかしルキアスにはそれらしき姿が見えない。

「え? どこ?」
「ほら、あそこ」

 ザネクの指の横に顔を動かして見てみるが、やはり見えない。

「やっぱり判らないよ……」

 と、その時ルキアスの目には岩にしか見えなかったものが動いた。翼のようなものを広げて宙に浮く。ところが翼のようなものは羽ばたいたりはしない。

「え!? 何、あれ!?」
「ガーゴイルだ」
「あれが!? 全然判らなかった!」
「岩に同化してて判りにくいのは確かだな」
「ザネクは良く見付けられたね」
「そこは慣れだ」

 そんな話をしている間にも二人は戦闘準備を整えている。ガーゴイルの方は思いの外動きが鈍く、漸く二人に向けて速度を上げ始めたところだ。
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