生活魔法は万能です

浜柔

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161 血塗れ

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 直後、ルキアスは後頭部に衝撃と熱を感じた。次の瞬間には後頭部から背中全体にぬめった何かが降り掛かる。

(ああ……、傷が酷いと痛いんじゃなくて熱く感じるのか……)

 そんな風に暢気に考えていたが、幾つもの衝撃や爆音が襲って来ても意識がはっきりしているのをさすがに訝しく感じた。目を開けて視線を上げれば迫り来るオーク。『傘』を反射的に差そうとするが、それよりも早くオークの頭が爆音と共に弾けた。飛び散った破片が降り掛かり、頬を濡らす。

(さっきのはぼくの血じゃなくてオークの……)

 ルキアスは些かの羞恥心と共にこれを為した誰かを目で捜す。左右を二往復させたところでその人物と目が合った。

「ルキアスちゃん!」
「メイナーダさん!?」

 カーゴパンツにタンクトップ、ジャケットと言った出で立ちのメイナーダがそこに居た。

「良かった。無事ね? だけど大変。血塗れじゃない」
「これは……」

 血塗れと言われて、ルキアスは羞恥心が増した。思い違いを誰かに知られた訳でもないのに、奇妙に恥ずかしいのだ。そのため「ぼくのじゃなくて……、オークの……」と歯切れの悪い言い方をしてしまうのだが、メイナーダはルキアスの様子に小首を傾げつつも「怪我が無くて良かったわ」と笑った。
 しかしあまりのんびりできる状況ではない。

「メイ! 早くこっちどうにかしてくれ!」

 ロマが悲鳴のような声を上げた。ルキアスをメイナーダに任せたザネクを含め、ロマとリュミアとの三人掛かりでオークの群れに相対しているものの、相手の数が多すぎてジリジリと後退を余儀なくされている。

「はい、はーい」

 対するメイナーダの返事は軽い。ロマ達三人が直ぐにどうこうなる状況ではないと踏んでいるので気楽なものだ。
 まずは空に向けて火球を放つ。火球は上空で光り輝き、辺りを昼間のように照らす。オークの群れの全容も一目瞭然だ。

「大きいの行くから一、二の三で伏せてねっ!」
「え!? おい! 待て!」

 オークに向けて指を突き出しながらのメイナーダの軽い言葉にロマが焦る。

「一、二の……」
「待てって!」
「三!」
「伏せろーっ!」

 ロマは慌てて伏せた。リュミアとザネクもそのあまりの切迫感に言葉の通りに伏せる。

「どーん」

 メイナーダが軽い言葉と共に指を鳴らすと、指の音に合わせたようにオークの群れの殆どを飲み込む巨大な火柱が立ち上がった。
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