生活魔法は万能です

浜柔

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156 あの数は無理

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「リュミア姉ちゃん」

 螺旋回廊から十分離れた所でザネクが声を掛ければリュミアが頷いた。

「ここらで迎え討つぞ!」

 ザネクの号令で皆足を止め、しつこく追い掛けて来るオークに対峙する。その数九頭。
 リュミアの魔法で瞬殺であった。

「先生! わたくしの出番がありませんわ!」
「へっぴり腰になってたわ……よ?」
「うう……」

 エリリースは首を窄めた。
 そう、エリリースはオークと対峙した時に腰が引けていた。醜態を晒したり、危機に陥ったりしなかったのはリュミアが遠距離で全て始末したからだ。
 ルキアスが蒸気を『加熱』するまでもなかった。しかしルキアスには出番より気になる事がある。

「さっきの人達と別の方に逃げて良かったのかな? 一緒に魔物の対処した方がいいんじゃ?」
「別で正解だぞ? 見ず知らずの連中だったからな。ダンジョンは無法地帯だ。信用できるかどうか判らない相手が居たんじゃ、そいつらまで警戒しなきゃならないだろ? 休もうにも休めなくなっちまう」

 無論常日頃人狩りのような真似をする者が居れば他の探索者に粛清されるが、完全に駆逐できている保証は無い。今この階層に居ないとも限らず、そうでなかった者が非常事態で突然豹変しないとも限らない。
 ザネクの話を鵜呑みにするのを躊躇ったルキアスがお伺いを立てるように目を向ければ、リュミアは頷いた。

「力を合わせなければならないような状況でなければお互いに避けた方がいいわ……ね」

 ルキアスはそう言うものだと納得するしかなかった。

「それよりこの後だ。どうする?」
「それだけど、先生ならさっきの群れを薙ぎ払えるんじゃ? 全部倒さなくて隙を突いてダンジョンから出たらいいし……」
「さすがにあの数は無理……ね」

 ルキアスの意見にリュミアは苦笑を返した。幾ら何でも数が多すぎるのだ。

「ガノス達がどうにかしてくれるまで待つしかないわ……よ」
「だよなぁ」

 しかし待つだけで良いとしても、一朝一夕で片付く数とも思えない。

「ってことは、今日は野宿だな」
「「えっ!?」」

 ルキアスとエリリースの声が重なった。しかし若干トーンが異なる。ルキアスはできれば避けたいと思い、エリリースは初めての経験に胸を躍らせている。こうした緊急避難的な状況でなければエリリースがダンジョンで野宿するのはあり得ないのだ。
 トーンの違いに気付いたルキアスがエリリースの様子を窺うが、そこに浮かぶ表情を前にして「頑張るしかないな」と結論付けるのにそう時間は掛からなかった。
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