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154 野草採取
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今日のルキアスは細長い『鏡』を出していない。森に比べて障害物の少ない草原では役立ちそうに見えるが、忍び寄って来る魔物を発見するためのものなのだ。いきなりドーンと来るホーンラビットには意味を為さない。
一方で普通の『鏡』は出して背後も見られるようにしている。その『鏡』の端に映るのが、顔を右へ左へ往復させてそわそわと落ち着かないエリリースだ。
「ホーンラビットが居ませんわね」
逸る気持ちを抑えられないのか、独り言が零れている。
「そんなに直ぐには見付からないよ」
ルキアスは振り返って応えた。いつも見付けようとすると見付からずに苦労するのだ。
「出て欲しくない時には団体で出たりするけど……」
ザネクの怪我で野宿する羽目に陥った晩の事は忘れられない。一度に複数が襲って来たのもあの時だけなら、続け様に襲って来たのもあの時だけだった。あれは夜にだったが、ここで「夜には」とは言い切れない。あれ以降が散発的にしか襲って来なかったからだ。
「ですけど、このままでは退屈ですわ」
「そうだよね」
こればかりはホーンラビットの都合? もあって、一日中遭遇しない可能性だってある。それでホーンラビット狙いしかしなかったら、当て所なく彷徨うだけの草臥れ儲けになってしまう。
尤もそうなったらそうなったで、つまらなく思ったエリリースが「もう探索には参りません」と言い出して、今後はエリリースの心配をしなくて良くなるかも知れない。しかしそれではエリリースがダンジョンに蟠りを残してしまいそうだ。
ルキアスとしてはエリリースに不愉快な思いはして欲しくないし、どうせなら楽しんで欲しい。だから確実に成果の見込める野草採取を提案し、リュミアの賛成もあって今日の主たる目標となったのである。丸坊主のリスクを取りたくなかっただけとも言う。
「だけどもう直ぐ野草の採取ポイントに着くから、採取しながら待とうよ」
「そうですわね……」
エリリースは縦ロールを指で弄びながら答えた。目標について同意したものの、どうにも野草採取はお好みでないらしい。ホーンラビットを狩るのだと意気込んでいたから当然か。
(ダンジョンは狩猟のイメージが強いもんなぁ)
ルキアスのイメージも主に狩猟だったし、今もそう大きくは変わらない。エリリースのイメージが狩猟なのも無理からぬことだ。
尤も、ホーンラビットを相手にしなければ、それがアクティブにならないエリリースのみならピクニックと変わらない。ルキアスと二人だけだったとしてもそうだ。エリリースさえ野草採取に徹すれば、魔物に襲われること無く行って帰って来れるだろう。
だが保護者的にはこの二人だけの探索はあり得ない。ダンジョンを彷徨くのは魔物ばかりでないからだ。この二人の組み合わせでは不埒者に「襲ってください」と言わんばかりになってしまう。だからホーンラビットがアクティブになろうとも同行しなければとリュミアは考える。これではホーンラビットを避けられない。
これらが絡み合って野草採取が主でしかなくなった。
(まあ、ぼくもホーンラビットが出て来てくれた方がいいけどね……)
ルキアスの場合は無論、収入問題だ。ただそれでもエリリースが不満に思う懸念は心に引っ掛かっていた。
まあ、杞憂だ。
採集ポイントに到着して採集を始めれば、エリリースも随分楽しそうにするのでルキアスもホッと一安心。楽しく採取をしていればあっと言う間に昼となる。ここまでホーンラビットが全く出現しなかったこともあり、野草は昼食と夕食を野草三昧にできる程に採取できている。
「そろそろお昼にしましょう……ね」
そうして昼食の準備をしていると、ルキアス同様の駆け出しらしい探索者三人組が近くを通り掛かった。三人組もルキアス達に気付いたらしく、その中の一人が近付いて来る。
「なあ、あんたら今日ホーンラビットを見たか?」
一方で普通の『鏡』は出して背後も見られるようにしている。その『鏡』の端に映るのが、顔を右へ左へ往復させてそわそわと落ち着かないエリリースだ。
「ホーンラビットが居ませんわね」
逸る気持ちを抑えられないのか、独り言が零れている。
「そんなに直ぐには見付からないよ」
ルキアスは振り返って応えた。いつも見付けようとすると見付からずに苦労するのだ。
「出て欲しくない時には団体で出たりするけど……」
ザネクの怪我で野宿する羽目に陥った晩の事は忘れられない。一度に複数が襲って来たのもあの時だけなら、続け様に襲って来たのもあの時だけだった。あれは夜にだったが、ここで「夜には」とは言い切れない。あれ以降が散発的にしか襲って来なかったからだ。
「ですけど、このままでは退屈ですわ」
「そうだよね」
こればかりはホーンラビットの都合? もあって、一日中遭遇しない可能性だってある。それでホーンラビット狙いしかしなかったら、当て所なく彷徨うだけの草臥れ儲けになってしまう。
尤もそうなったらそうなったで、つまらなく思ったエリリースが「もう探索には参りません」と言い出して、今後はエリリースの心配をしなくて良くなるかも知れない。しかしそれではエリリースがダンジョンに蟠りを残してしまいそうだ。
ルキアスとしてはエリリースに不愉快な思いはして欲しくないし、どうせなら楽しんで欲しい。だから確実に成果の見込める野草採取を提案し、リュミアの賛成もあって今日の主たる目標となったのである。丸坊主のリスクを取りたくなかっただけとも言う。
「だけどもう直ぐ野草の採取ポイントに着くから、採取しながら待とうよ」
「そうですわね……」
エリリースは縦ロールを指で弄びながら答えた。目標について同意したものの、どうにも野草採取はお好みでないらしい。ホーンラビットを狩るのだと意気込んでいたから当然か。
(ダンジョンは狩猟のイメージが強いもんなぁ)
ルキアスのイメージも主に狩猟だったし、今もそう大きくは変わらない。エリリースのイメージが狩猟なのも無理からぬことだ。
尤も、ホーンラビットを相手にしなければ、それがアクティブにならないエリリースのみならピクニックと変わらない。ルキアスと二人だけだったとしてもそうだ。エリリースさえ野草採取に徹すれば、魔物に襲われること無く行って帰って来れるだろう。
だが保護者的にはこの二人だけの探索はあり得ない。ダンジョンを彷徨くのは魔物ばかりでないからだ。この二人の組み合わせでは不埒者に「襲ってください」と言わんばかりになってしまう。だからホーンラビットがアクティブになろうとも同行しなければとリュミアは考える。これではホーンラビットを避けられない。
これらが絡み合って野草採取が主でしかなくなった。
(まあ、ぼくもホーンラビットが出て来てくれた方がいいけどね……)
ルキアスの場合は無論、収入問題だ。ただそれでもエリリースが不満に思う懸念は心に引っ掛かっていた。
まあ、杞憂だ。
採集ポイントに到着して採集を始めれば、エリリースも随分楽しそうにするのでルキアスもホッと一安心。楽しく採取をしていればあっと言う間に昼となる。ここまでホーンラビットが全く出現しなかったこともあり、野草は昼食と夕食を野草三昧にできる程に採取できている。
「そろそろお昼にしましょう……ね」
そうして昼食の準備をしていると、ルキアス同様の駆け出しらしい探索者三人組が近くを通り掛かった。三人組もルキアス達に気付いたらしく、その中の一人が近付いて来る。
「なあ、あんたら今日ホーンラビットを見たか?」
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