生活魔法は万能です

浜柔

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149 傘に乗る

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 森の中を歩く途中、ゴンと音がするのと同時にルキアスは後に引っ張られる感覚がして足を止めた。

「どうした?」
「『傘』が木に引っ掛かったみたい」

 ルキアスは背後からの襲撃に備え、背中側で後ろに向けて『傘』を差していたが、円が基本の『傘』のこと、背丈に合わせればどうしても横がはみ出してしまう。森を歩けばルキアス自身は通れても『傘』がぶつかるのは無理からぬことだった。

「それ、必要なのか?」

 無いよりマシなのは解るがと、ザネクは言う。ルキアスの目標がダメージを受けないことなら意味を為しても、攻撃を受けないことなら『傘』で防ぐ事態になった時点で目標への不達が確定する。

「……そだね。しようとしてたのから外れてたよ」

 ルキアスは反省して『傘』に頼るのは戦闘の時だけと決める。

「それじゃ、『傘』は消すね」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」

 ザネクが何かを思い付いたようにルキアスの『傘』に近付いて、コンコンとその表面を叩く。一般的な『傘』ならこの程度で大抵崩壊するが、ルキアスの『傘』はビクともしていない。恐るべき強度。だが、ザネクもとっくに見知っているので今更驚きはしない。

「なあ、これ、もしかして上に乗れるんじゃないか?」
「乗れる? まさかぁ」

 ルキアスは笑って否定するが、もしかしてと思いもする。

「試してみる?」
「そう来なくっちゃな!」

 ルキアスが危険の無いように地面ギリギリで上に向け、大きめに『傘』を張り直す。
 ザネクが『傘』が完全に地面から浮いているのを確かめてから上に乗る。ミシッと軋む感触が有ったがそれ以上の変化が無い。縁が光る以外は透明で、緩く上に膨らんだ『傘』の表面を足で探りながら真ん中まで歩く。

「すげぇ!」
「やった!」

 しかしザネクとルキアスが喜んだのも束の間、パリンと音が響いて『傘』が崩壊した。継続的な加重には耐えられなかったのだ。

「うおっ!」

 足下がいきなり消えたものだからザネクはすっ転んだ。下手に踏ん張ると足を痛めかねないので敢えてだ。

「ザネク、大丈夫?」
「くくっ……、あっはっはははっ!」

 ルキアスが心配して声を掛けるが、ザネクは地面に寝っ転がったまま愉快そうに笑った。そして晴れ晴れとした表情で言う。

「なあ、ルキアス。魔法ってすげぇな? 『傘』に乗るなんて今まで考えもしなかったぜ」
「ぼくもそう思うよ」

 ルキアスは答えながら、『傘』の更なる可能性に思いを馳せた。
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