生活魔法は万能です

１４２ 針金

　食費分を稼いだルキアスは早めに探索を終えた。食費を稼ぐのは最優先だが、今はこれを超える分を稼ぐよりも銃の改善が優先だ。ダンジョンを出て昼食を摂ったら連射の為の改造に取り組む。
　連射できない理由は二つ。蒸気の充填と弾丸の装填だ。この内蒸気の充填は複数発分を事前に用意するのが極めて難しそうなので後回しにし、先に装弾の改善を試みる。弾丸だけなら複数を予めセットするのも容易だ。何しろ維持に魔法が要らないのだから。
　当然ながら弾丸をごちゃっと入れて済むものではない。レバー操作一つで次弾を装填するには整然と並べなければならない。
　考えられる一つは箱に一列に並べて入れ、順番に押し出す形の弾倉。これの難点はコイルバネを必要とするところだ。鉄線の自作が極めて難しい。

（どんな鉄がバネに使えるかもよく判らないのがね……）

　引き金の機構に使っている板バネもそれっぽい性質の鉄片を無加工で使っているだけなのだ。
　話を戻して、考えられる別の一つは回転式の弾倉。これの難点は加工精度が要求されることだ。スムーズに回転する機構の作成や、弾丸を籠めるチャンバーを軸から等距離で幾つも設けるなど手作業でできる気がしない。
　考えられるもう一つはベルト式。難点は横に大きくはみ出させざるを得ないことだ。鉄製なら信頼性を高くできるが可動部ががっつり横にはみ出し、革製なら強度が心配になる上に信頼性も怪しい。

（バネが難しいけど、現実的なのは箱形かな）

　箱形にするとして、装弾機構の真下には設けられない。蒸気タンクや引き金機構が干渉するためだ。銃から変にはみ出してしまうのが微妙でも上か横か斜め下かの選択になる。
　しかし目下の問題としてはバネよりは些細だ。製作できないことは無いのだから。
　そのためルキアスは接続の向きは後回しにし、バネについて考える。が、手持ちの鉄を弄ってもバネになる気がしない。今まで鉄の性質と用途の関係を考えていなかったため、硬いのも柔らかいのも全部纏めて『捏ね』てしまっている。

　行き詰まったルキアスは地下一階商店街の金物屋に顔を覗かせた。
　針金は有るが、バネは無い。しかしそれは当然だ。日常生活でバネが必要になる場面などほぼ無い。もし有っても、必要になる大きさはその都度違う。そんな需要に応える品揃えは限られた店舗スペースでは不可能だろう。
　針金は買えなくもない。一〇〇〇ダールも出せば多少失敗しても大丈夫そうな長さを買える。
　だがルキアスは手を出しづらい。もしもふにゃふにゃな針金だったらバネの形に加工しても見かけ倒しになってしまう。

「らっしゃい。ゴルド金物店にようこそ。何をお探しです？」

　不意に手許が陰ると共に聞こえた声に振り向けば、筋骨隆々で強面の大男が凶悪な笑みを浮かべている。

「ふへっ！」

　びっくしりしたルキアスは奇声を上げて跳び退った。