生活魔法は万能です

浜柔

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138 待つ人は

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 ロマは寝入り端を起こされた。

「何だよ……」

 寝ぼけ眼で自分を起こした人物に目を向ければ、無料宿泊所仲間だ。

「ルキアスを訪ねて人が来てるんだが、知らないか?」
「ルキアスならいつもの場所で寝てるんじゃないのか?」

 ルキアスも多くの例に漏れず、いつも同じ区画を使っている。しかし皆がお互いにその場所を憶えているものでもない。

「そこ、俺知らねぇし」
「……仕方ないなぁ」

 ロマは欠伸を噛み殺しながら無料宿泊所の区画から這い出る。そして自分を起こしに来た相手に訪ねて来た人物の許まで案内して貰うと、待っていたのはリュミアであった。

「あんたは確かメイの家までルキアスに引っ付いて行ったねぇちゃんだな?」
「いいえ、わたしが引っ付いていたのはルキアスくんに引っ付いて行ったコに……よ」
「……どっちでもいいよ、そんなの。で、ルキアスだったな?」
「ええ」

 ロマはルキアスがいつも使っている区画を覗きに行って、また戻る。

「まだ帰ってないみたいだな」
「どこに居るのか判らないかし……ら?」
「そこまではさすがにな。しかしどうしてルキアスを捜してるんだ?」
「……ザネクがまだ帰らない……の。ルキアスくんと一緒じゃないかしらと……ね」
「ザネクって誰だ? ……って、ルキアスの友達か?」
「ええ」
「だったら二人で夜遊びでもしてるんじゃないか? 遊びたい年頃だろ?」
「ザネクはそんなコじゃない……わ」
「ん?」

 ロマは奇妙な居心地の悪さにこめかみを掻いた。ルキアスの友人なら似た歳だろう。そんな歳の相手に保護者然とした言い回しは探索者に似つかわしくない。

「そいつはあんたとどんな関係だ?」
「弟……みたいなもの……ね」
「なるほどねぇ」

 ロマは腕組み頷く。しかし内心では「さっぱり判らん」と匙を投げた。相手が探索者として登録しているのなら一人前として扱い、保護しようとは思わない。心配するのと保護するのとは別の話なのだ。

「なあ、あんたは少し過保護じゃないか?」
「違う……と思う……わ」
「……まあ普通、本人はそうじゃないつもりだからなぁ」

 指摘されたくない部分だったのか、リュミアが少し悄気気味になる。
 ロマは内心「やっちまったかな」と思いながら頭を掻いた。

「ともかくあんたはそのザネク……だったか? そいつがダンジョンに行くって出掛けたまま帰宅しないのを心配してルキアスまで確かめに来たんだな?」
「そう……ね」
「しかしダンジョンじゃ捜しに行きようも無いからなぁ」

 ロマがそう言うと、リュミアの表情が目に見えて沈んだ。

「駄目元でメイに頼ってみるか……」

 ロマは沈んだ顔の女を放ってもおけず、さりとてどう声を掛けたものかも判らず、メイナーダに助けを求めることにした。




「誰よ? こんな時間に」

 ノックで起こされたメイナーダの声音には不満がありありと浮かんでいた。

「俺だ。ロマだ」
「ロマぁ? 常識ってものを考えなさ……」

 玄関を開けながらロマへの苦情を口にしていたメイナーダだったが、その後の沈んだ表情をした女を目にして言葉を詰まらせた。

「……何があったの?」

 メイナーダは問い掛けはしたものの、立ち話する雰囲気でもないので二人を招き入れ、リビングで改めて同じ問いをした。
 それにはロマがかくかくしかじかと答える。

「……そう。だけど捜しには行けないわ。ダンジョンのどこを捜せばいいか判らないもの」
「誰か捜せるヤツを知らないか?」
「ロマが知らないものをどうしてわたしが知ってると思うの?」

 メイナーダは最近ベクロテに戻って来たのだ。ずっとベクロテ住まいのロマと比べて最近の事情に明るい筈もない。

「……言ってみただけだ」
「よろしい。だから信じて待ちましょう? わたし達にできるのはそれだけだわ」

 リュミアも頷くしかなかったようだ。

「きっと大丈夫よ。だってルキアスちゃんが居るんだもの」
「その自信はどこから来るんだ……」
「勿論、女の勘よ」
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