生活魔法は万能です

浜柔

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131 単純なこと

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 ルキアスは水を被って頭が冷えたためか、ザネクのオコにも気付いて首を竦める。

「邪魔しちゃってごめん。怒って……る?」
「……怒るかはルキアスが浮かれてた理由次第だ」
「あはは……」

 ルキアスは冷や汗である。そんな言い方をする時点で怒っているではないかと。しかし理由は聞かれずとも話すつもりだ。

「その……、ね。蒸気タンクに注水するコツが判ったんだ」
「ん?」

 ザネクは首を傾げた。どう目途が立ったのか。それが重要だ。

「えっと……、やって見せるね!」

 ルキアスは引き金を寝かせた、即ち栓棒を引いた状態で銃口を上に向ける。蒸気タンクに水が入っていれば抜けて引き金の穴から零れ落ちるところだが、今は零したばかりで滴が幾らか落ちるのみだ。しかしここではタンクが空なのが重要だ。次に銃口を下に向けて周囲を一〇秒ほど走る。そして再度銃口を上に向ければ水がジャバジャバと流れ落ちた。

「お?」

 ザネクの目が驚きに開かれた。ルキアスは今まで歩く最中の注水にも苦労していた筈だ。そうでなければ湯気に塗れることにはなっていない。

「どうやった?」
「単純なことだったんだ。今までずっと目で見て狙い定めてたけど、目で見なくても手の感覚でやれば良かったんだよ」

 『湧水』や『加熱』は魔法を掛ける対象から外せば惨事になる。だから目で見て確認する癖が付いていたのだ。その癖が却って邪魔をしていた。
 左手で蒸気タンクのカバーを掴んでいるのだから、その左手の相対位置で狙えば良い。左手で同じ場所を掴んでいる限り、間違えない。反復した練習でその感覚が身になっていた。

「あー、なるほどな」

 ザネクは「剣を振るのも似たようなものだ」と頷いた。剣も反復練習で半ば無意識に振る。これと重ね合わせれば理解が容易だ。

「今日のルキアスの一番の目標がそれだったからな」

 ザネクが納得したことで、戦闘中の突拍子のない行動はお咎め無しになった。二人とも無傷だからでもある。
 だがルキアスの練習はまだ道半ば。まだ蒸気を起こすのが残っている。
 ともあれ階層の端を目指して再出発だ。
 そうして歩きながら、ルキアスがザネクに声を掛ける。

「撃つよ」

 ザネクが耳を塞ぐ。
 ルキアスが横を狙って引き金を引くと、バァンと音を立てて蒸気が銃口から噴き出した。
 空砲だ。蒸気タンクから蒸気を抜くにはこれが一番早い。しかし音は出る。

「その音が玉に瑕だな」
「ぼくもそう思う」

 ルキアスの耳は耳鳴りがキンキンし始めていた。引き金を引くルキアスは最も近い場所で耳を塞げない。発射を繰り返せば音で最もダメージを受けるのはルキアスなのだ。
 だから途中から発射は止め、時間が掛かっても蒸気タンクの温度を下げてから水を抜くように変えた。
 それからまた暫く、階層の端にも到着した。
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