128 / 627
128 迎撃
しおりを挟む
迎撃とは言っても、振り返って殴り掛かれば済むものではない。もしもルキアスがそれをしたなら反撃を受けて天に召されてしまう。ルキアスが行うのは射撃だ。
ところが走りながらでは手にする銃が揺れて目測できず、『湧水』や『加熱』の狙いが定まらない。蒸気タンクに蒸気を溜めるには立ち止まる必要がある。
「ザネク! 一〇秒だけオークの足止めお願い!」
「おう! 任せとけ!」
ルキアスはザネクが立ち止まるのに合わせて立ち止まり、蒸気タンクに『湧水』で水を入れ、栓棒を押し込み、弾丸を籠めてから『加熱』を始める。『加熱』し始めさえすれば多少動いても維持は可能だ。
この間にもオークが迫り、剣と棍棒が打ち合う鈍い音が響く。
ルキアスはその音に重なるようなタイミングで声を上げた。
「いいよ! 逃げて!」
「おう!」
ルキアスが先に逃げ、ザネクが自身の逃げ出す切っ掛けを作るために剣をオークへと叩き付ける。正面切ったその剣は棍棒に跳ね返されるが、これこそザネクの意図だ。弾かれる勢いそのままに遁走する。
オークは元々数秒遅れで追い掛けて来ていたこともあり、ザネクが剣を交えたのは最初の一合と、逃げ出す切っ掛け作りの一合の都合二合のみに終わった。ザネクが無傷ならオークもまた無傷のままだ。
それから一分ばかり逃げたところでルキアスの準備が整った。
「ザネク、撃てるよ!」
「おう!」
二人は立ち止まって振り返る。先頭のオークはザネクに任せ、ルキアスは次のオークを狙う。確実に仕留めなければまたやり直しだ。だから確実にオークを貫けるよう、今回はいつもより少し温度を高くしている。そして十分に引き付ける。
先頭のオークが棍棒を振り上げ振り下ろす。その棍棒をザネクが剣で弾く。
ここで漸くルキアスは引き金を引いた。バァンと音を立てて発射された弾丸は狙い違わず間近に迫っていたオークの眉間を貫いた。
ところがオークはまだ走り続ける。
「『傘』!」
ルキアスは咄嗟に『傘』を展開しながら横に跳ぶ。何かあったらとにかく『傘』のルキアスである。
『傘』はオークの体当たりで脆くも砕けるが、これを切っ掛けにしたようにオークの身体が傾ぎ、前のめりで倒れ臥した。
「やっ、た!」
まだ倒せないと思っていたオークを倒せたのだから感慨も一入だ。
「おう、ルキアス。上手くやったな」
ザネクである。その普段と変わらない声音にルキアスは「ありがとう」と言いつつも訝しげに振り向けば、ザネクは二頭のオークを倒し終えていた。
「あれ? オーク……」
「倒したぞ」
「うん。見れば判るけど……、もしかしてザネクってオーク二頭相手でも勝てた?」
「まあな。だが今日の俺はルキアスのサポートだ。ルキアスが逃げると言えば逃げるぜ」
「ぐはっ! そうだったのか……」
当然とばかりのザネクの言葉に、ルキアスは無駄に逃げていたと知った。
(有り難いんだけど! 有り難いんだけど!)
何となく釈然とせず、心の中で叫ぶルキアス。それでも一応は一つの目標を達成したのであった。
ところが走りながらでは手にする銃が揺れて目測できず、『湧水』や『加熱』の狙いが定まらない。蒸気タンクに蒸気を溜めるには立ち止まる必要がある。
「ザネク! 一〇秒だけオークの足止めお願い!」
「おう! 任せとけ!」
ルキアスはザネクが立ち止まるのに合わせて立ち止まり、蒸気タンクに『湧水』で水を入れ、栓棒を押し込み、弾丸を籠めてから『加熱』を始める。『加熱』し始めさえすれば多少動いても維持は可能だ。
この間にもオークが迫り、剣と棍棒が打ち合う鈍い音が響く。
ルキアスはその音に重なるようなタイミングで声を上げた。
「いいよ! 逃げて!」
「おう!」
ルキアスが先に逃げ、ザネクが自身の逃げ出す切っ掛けを作るために剣をオークへと叩き付ける。正面切ったその剣は棍棒に跳ね返されるが、これこそザネクの意図だ。弾かれる勢いそのままに遁走する。
オークは元々数秒遅れで追い掛けて来ていたこともあり、ザネクが剣を交えたのは最初の一合と、逃げ出す切っ掛け作りの一合の都合二合のみに終わった。ザネクが無傷ならオークもまた無傷のままだ。
それから一分ばかり逃げたところでルキアスの準備が整った。
「ザネク、撃てるよ!」
「おう!」
二人は立ち止まって振り返る。先頭のオークはザネクに任せ、ルキアスは次のオークを狙う。確実に仕留めなければまたやり直しだ。だから確実にオークを貫けるよう、今回はいつもより少し温度を高くしている。そして十分に引き付ける。
先頭のオークが棍棒を振り上げ振り下ろす。その棍棒をザネクが剣で弾く。
ここで漸くルキアスは引き金を引いた。バァンと音を立てて発射された弾丸は狙い違わず間近に迫っていたオークの眉間を貫いた。
ところがオークはまだ走り続ける。
「『傘』!」
ルキアスは咄嗟に『傘』を展開しながら横に跳ぶ。何かあったらとにかく『傘』のルキアスである。
『傘』はオークの体当たりで脆くも砕けるが、これを切っ掛けにしたようにオークの身体が傾ぎ、前のめりで倒れ臥した。
「やっ、た!」
まだ倒せないと思っていたオークを倒せたのだから感慨も一入だ。
「おう、ルキアス。上手くやったな」
ザネクである。その普段と変わらない声音にルキアスは「ありがとう」と言いつつも訝しげに振り向けば、ザネクは二頭のオークを倒し終えていた。
「あれ? オーク……」
「倒したぞ」
「うん。見れば判るけど……、もしかしてザネクってオーク二頭相手でも勝てた?」
「まあな。だが今日の俺はルキアスのサポートだ。ルキアスが逃げると言えば逃げるぜ」
「ぐはっ! そうだったのか……」
当然とばかりのザネクの言葉に、ルキアスは無駄に逃げていたと知った。
(有り難いんだけど! 有り難いんだけど!)
何となく釈然とせず、心の中で叫ぶルキアス。それでも一応は一つの目標を達成したのであった。
45
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

忠犬ポチは、異世界でもお手伝いを頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
私はポチ。前世は豆柴の女の子。
前世でご主人様のりっちゃんを悪い大きな犬から守ったんだけど、その時に犬に噛まれて死んじゃったんだ。
でもとってもいい事をしたって言うから、神様が新しい世界で生まれ変わらせてくれるんだって。
新しい世界では、ポチは犬人間になっちゃって孤児院って所でみんなと一緒に暮らすんだけど、孤児院は将来の為にみんな色々なお手伝いをするんだって。
ポチ、色々な人のお手伝いをするのが大好きだから、頑張ってお手伝いをしてみんなの役に立つんだ。
りっちゃんに会えないのは寂しいけど、頑張って新しい世界でご主人様を見つけるよ。
……でも、いつかはりっちゃんに会いたいなあ。
※カクヨム様、アルファポリス様にも投稿しています

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる