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105 ライバル
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ラビットホーン。どこかの魔物のような名を掲げた大衆食堂兼居酒屋のテーブル席にエリリースとリュミアは陣取った。ルキアス達の後を追って入店したものの、彼らが個室に入ってしまったので出て来るのを待つことにした。
エリリースは個室の傍に寄って聞き耳を立ててみたが無駄だった。個室はそこそこ防音がしっかりしているようでもあるし、店内は半数以上の席が埋まっていて結構賑やかなのだ。他の客の声に紛れてまるで聞こえなかった。
リュミアはやきもきしている様子のエリリースを見て苦笑する。
「あなたに覗き趣味があったとは以外だ……わ」
「ち、違います! わたくしはルキアスがおかしな女性に騙されているのではないか心配なだけです」
この言葉が本当だとしても、跡を付けてまでするような関係性までは恐らく無い。
「だとして、ここにこうして居る意味はあるのかし……ら?」
「も、もしそうなら、い、一刻も早く進む道を正しませんと!」
「そう言うことにしておきま……しょ」
リュミアは奇妙なほどにテンパっている様子のエリリースに言葉を重ねても無為だと感じた。それにエリリースにとってルキアスは毛色の違った友人ではあるので、少し拘ってしまっても無理からぬことかも知れないとも考えた。
ルキアス達が個室を出たのは一時間余りが経ってからのことだ。女性に腕を絡められて憔悴したようなルキアスの姿は、エリリースの目には悪い女に騙されているように映る。
「ちょっとそこのあなた。ルキアスから手をお放しなさい!」
「エリリース!?」
ルキアスは突然立ち塞がったエリリースに仰天した。リュミアは頭痛がするかのように顔を押さえ、メイナーダは喜色を浮かべる。
メイナーダにとってはたわいないハプニングに過ぎない。ルキアスが今のユアを無下にできないことは判っているし、将来に向かってはゆっくり籠絡してしまえば良いのだ。むしろこれを切っ掛けにユアにもっと積極的になって貰ってもいい。
「ねえ、ユア。大変よ。強力なライバル出現だわ!」
「ん!」
「ちょっと、メイナーダさん……。ユアも……」
ユアはルキアスの脚にヒッシとしがみついてエリリースに警戒心を露わにしていた。
「ななっ!」
エリリースは動揺した。小さい子供に警戒されるのは嬉しくないものだ。
「エリリース、これはね……」
ルキアスは言い訳をしようとするが、適当な言葉が思い浮かばない。
そうする間に店内の注目は浴びていた。「よっ! 兄ちゃん! 美人に取り合いされるなんて男冥利に尽きるな!」「どっちが好みなんだぁ?」「待て待て三人だぞ」「おう、あのちびっ子もか!」「自分好みに育てるのもいいんじゃないか?」。適当を言いながら客達は「わっはっはー」と笑い合う。
「と、とにかく出ましょう!」
ルキアスにいち早く同意したのはリュミアだ。そのリュミアが無言のままエリリースの手を引いて店の外に出るよう促した。
「そ、そうですわね……」
「何のために個室に入ったか判らねぇな……」
一方で、そう安くもない料金を支払った結果がこれではと、ロマはぼやくのであった。
エリリースは個室の傍に寄って聞き耳を立ててみたが無駄だった。個室はそこそこ防音がしっかりしているようでもあるし、店内は半数以上の席が埋まっていて結構賑やかなのだ。他の客の声に紛れてまるで聞こえなかった。
リュミアはやきもきしている様子のエリリースを見て苦笑する。
「あなたに覗き趣味があったとは以外だ……わ」
「ち、違います! わたくしはルキアスがおかしな女性に騙されているのではないか心配なだけです」
この言葉が本当だとしても、跡を付けてまでするような関係性までは恐らく無い。
「だとして、ここにこうして居る意味はあるのかし……ら?」
「も、もしそうなら、い、一刻も早く進む道を正しませんと!」
「そう言うことにしておきま……しょ」
リュミアは奇妙なほどにテンパっている様子のエリリースに言葉を重ねても無為だと感じた。それにエリリースにとってルキアスは毛色の違った友人ではあるので、少し拘ってしまっても無理からぬことかも知れないとも考えた。
ルキアス達が個室を出たのは一時間余りが経ってからのことだ。女性に腕を絡められて憔悴したようなルキアスの姿は、エリリースの目には悪い女に騙されているように映る。
「ちょっとそこのあなた。ルキアスから手をお放しなさい!」
「エリリース!?」
ルキアスは突然立ち塞がったエリリースに仰天した。リュミアは頭痛がするかのように顔を押さえ、メイナーダは喜色を浮かべる。
メイナーダにとってはたわいないハプニングに過ぎない。ルキアスが今のユアを無下にできないことは判っているし、将来に向かってはゆっくり籠絡してしまえば良いのだ。むしろこれを切っ掛けにユアにもっと積極的になって貰ってもいい。
「ねえ、ユア。大変よ。強力なライバル出現だわ!」
「ん!」
「ちょっと、メイナーダさん……。ユアも……」
ユアはルキアスの脚にヒッシとしがみついてエリリースに警戒心を露わにしていた。
「ななっ!」
エリリースは動揺した。小さい子供に警戒されるのは嬉しくないものだ。
「エリリース、これはね……」
ルキアスは言い訳をしようとするが、適当な言葉が思い浮かばない。
そうする間に店内の注目は浴びていた。「よっ! 兄ちゃん! 美人に取り合いされるなんて男冥利に尽きるな!」「どっちが好みなんだぁ?」「待て待て三人だぞ」「おう、あのちびっ子もか!」「自分好みに育てるのもいいんじゃないか?」。適当を言いながら客達は「わっはっはー」と笑い合う。
「と、とにかく出ましょう!」
ルキアスにいち早く同意したのはリュミアだ。そのリュミアが無言のままエリリースの手を引いて店の外に出るよう促した。
「そ、そうですわね……」
「何のために個室に入ったか判らねぇな……」
一方で、そう安くもない料金を支払った結果がこれではと、ロマはぼやくのであった。
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