96 / 627
96 タワー前
しおりを挟む
ダンジョンタワーの警報はベクロテの町にも鳴り響き、年越しのお祭り騒ぎから早めに離脱した探索者達も押っ取り刀でダンジョンタワーに集まりだしていた。
ザネクもその中の一人だ。彼はダンジョンタワーを取り囲む人々の中に兄と幼馴染みの姿を見付けた。
「兄ちゃん! リュミア姉ちゃん! 何が起きたんだ!?」
「おー、ザネク。よく来た。ご覧の通りに防衛機構が誤動作したらしくてな。中は水浸しだ」
ザネクは障壁が半ば閉じかけた入口から階下を見る。既に地下一階は浸水して見る影もない。
「どうして誤動作なんか?」
「それがな、そこの馬鹿野郎どもがオークを引き連れて地下一階まで来やがって、そのオークはみんなで倒したんだがこの有り様だ。お陰で酔いも醒めちまった」
ガノスは近くで拘束されている男達を顎で指した。グロンとその仲間だった。
彼らはエリリースが講習の後には直ぐに帰宅の途に就くため、せめてルキアスにとオークでリベンジを試みたのだ。オークを一頭だけ擦り付け、ルキアスが少し痛い目に遭ったら自分達でオークを倒そうと考えたのだ。ルキアスがホーンラビットなら操れてもオークなら操れないだろうとの算段もある。勿論ルキアスは操れないのでグロンの思い込みに過ぎないが。
しかしオークはホーンラビットとは違う。ホーンラビットを釣るくらいの気持ちで成功する筈もない。都合良く一頭だけのオークはなかなか見付けられず、見付けても上手く釣れない。結果、予定を大きく超える時間を費やした挙げ句に引き上げる決心をした時にはもう真っ暗だ。更には引き上げる途中に意図せず引いたオークの群れに這々の体でダンジョンから逃げ出した。
そして年越しのお祭り気分で皆の気が緩んでいた間隙を突いたようにそのオークの地下一階への侵入を赦してしまった。しかしその地下一階には普段より探索者の姿が多いのだ。オークは間もなく討伐された。
ところがこの事で長らく動いていなかった防衛機構が過剰反応。故障も明るみとなったのである。
ザネクは概要を聞いた後、三人を無言で睨んだ。しかし三人にはそれが酷く突き刺さったらしい。
「こんな事になるとは思わなかったんだ!」
「ああ! あのルキアスとか言う奴をちょっと懲らしめてやるだけのつもりだった!」
「ヒッ!」
途中でザネクの形相が般若のように変わったお陰で、三人は悲鳴を上げて口を閉じた。
ザネクははたと気付いて周囲を見回す。だが捜す姿は無い。ガノスに尋ねる。
「ルキアスは? ルキアスは見てないか!?」
「そう言や、見てないな」
「リュミア姉ちゃんは?」
リュミアも首を横に振るだけだ。
「まさかまだ中に!?」
ザネクは半ば無意識に中に入ろうとするが、ガノスに止められた。
「待て。行ったってどこを捜していいか判りゃしない。下手するとお前の方がお陀仏だ」
「でも兄ちゃん!」
「まあ、ルキアスを信じてやるんだな。あれはあれで案外しぶといかも知れん。それにお前が付き合うに相応しいならどうにか生きて出て来るさ」
ガノスの言葉はザネクには酷く冷たく感じたが、口調とは裏腹なガノスの酷く苦そうな表情に反論の言葉は声にならなかった。
その頃ルキアスは水の中で瓦礫にのし掛かられて藻掻いていた。
ザネクもその中の一人だ。彼はダンジョンタワーを取り囲む人々の中に兄と幼馴染みの姿を見付けた。
「兄ちゃん! リュミア姉ちゃん! 何が起きたんだ!?」
「おー、ザネク。よく来た。ご覧の通りに防衛機構が誤動作したらしくてな。中は水浸しだ」
ザネクは障壁が半ば閉じかけた入口から階下を見る。既に地下一階は浸水して見る影もない。
「どうして誤動作なんか?」
「それがな、そこの馬鹿野郎どもがオークを引き連れて地下一階まで来やがって、そのオークはみんなで倒したんだがこの有り様だ。お陰で酔いも醒めちまった」
ガノスは近くで拘束されている男達を顎で指した。グロンとその仲間だった。
彼らはエリリースが講習の後には直ぐに帰宅の途に就くため、せめてルキアスにとオークでリベンジを試みたのだ。オークを一頭だけ擦り付け、ルキアスが少し痛い目に遭ったら自分達でオークを倒そうと考えたのだ。ルキアスがホーンラビットなら操れてもオークなら操れないだろうとの算段もある。勿論ルキアスは操れないのでグロンの思い込みに過ぎないが。
しかしオークはホーンラビットとは違う。ホーンラビットを釣るくらいの気持ちで成功する筈もない。都合良く一頭だけのオークはなかなか見付けられず、見付けても上手く釣れない。結果、予定を大きく超える時間を費やした挙げ句に引き上げる決心をした時にはもう真っ暗だ。更には引き上げる途中に意図せず引いたオークの群れに這々の体でダンジョンから逃げ出した。
そして年越しのお祭り気分で皆の気が緩んでいた間隙を突いたようにそのオークの地下一階への侵入を赦してしまった。しかしその地下一階には普段より探索者の姿が多いのだ。オークは間もなく討伐された。
ところがこの事で長らく動いていなかった防衛機構が過剰反応。故障も明るみとなったのである。
ザネクは概要を聞いた後、三人を無言で睨んだ。しかし三人にはそれが酷く突き刺さったらしい。
「こんな事になるとは思わなかったんだ!」
「ああ! あのルキアスとか言う奴をちょっと懲らしめてやるだけのつもりだった!」
「ヒッ!」
途中でザネクの形相が般若のように変わったお陰で、三人は悲鳴を上げて口を閉じた。
ザネクははたと気付いて周囲を見回す。だが捜す姿は無い。ガノスに尋ねる。
「ルキアスは? ルキアスは見てないか!?」
「そう言や、見てないな」
「リュミア姉ちゃんは?」
リュミアも首を横に振るだけだ。
「まさかまだ中に!?」
ザネクは半ば無意識に中に入ろうとするが、ガノスに止められた。
「待て。行ったってどこを捜していいか判りゃしない。下手するとお前の方がお陀仏だ」
「でも兄ちゃん!」
「まあ、ルキアスを信じてやるんだな。あれはあれで案外しぶといかも知れん。それにお前が付き合うに相応しいならどうにか生きて出て来るさ」
ガノスの言葉はザネクには酷く冷たく感じたが、口調とは裏腹なガノスの酷く苦そうな表情に反論の言葉は声にならなかった。
その頃ルキアスは水の中で瓦礫にのし掛かられて藻掻いていた。
29
お気に入りに追加
823
あなたにおすすめの小説
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる