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80 乾燥
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材木を手に入れた翌日の講習は生存術で、索敵の応用だった。前日にも来た林で前回同様チャーラを探して風魔法で吹き飛ばされる経験を積んだルキアスである。
それはそれとして、ルキアスは今、材木を乾燥させなければならない。乾かさなければ木材として使えないので、早々に行わなければ銃作りが進まない。ダンジョンから出ることなく昼食を摂った後、作業に取り掛かる。場所は螺旋の回廊の近くに移してだ。
乾燥には『加熱』を駆使する。自然乾燥では一年……太くはないのでそこまで行かないとしても、数ヶ月は掛かってしまう。だから多少材木が痛むのにも、割れるのにも目を瞑って高温を以て乾かすのだ。
乾きすぎないように水を掛けながら芯まで材木の芯まで熱を通す。『加熱』は表面を熱するだけだから芯まで熱が通るには時間が掛かる。表面と芯とで温度差が大きいほどに割れやすいので、この段階はあまり急げない。
じゅわじゅわ音を立てて湯気が立つ。この付近では普段に無い光景なので極めて目立っている。しかし湯気は水を掛けるのを止めたからって止まるものじゃない。既に材木自体の水分が蒸発して湯気を立て始めている。夕刻近くもなれば、ダンジョンから引き上げる人が「何だあれは?」と二度見しながら通り過ぎて行く。
(こんな筈じゃ……)
注目を浴びたい訳じゃないのだ。あまり注目されると恥ずかしい。しかしその恥ずかしさに負けて途中で止めてしまえば、材木が割れるリスクばかりが高くなる。それに今止めたところで他に適当な場所も無いのだ。じっと我慢するしかない。
人通りが殆ど無くなり、辺りも薄暗くなる。ルキアスはそろそろ引き上げ時だと考える。できれば徹夜して乾かしたいところだが、退っ引きならない事情で一度はこの場を離れなければならない。しかし放置もできない材木は触ると火傷する現状、持ち歩けない。こうなると切り上げるしかない。
しかしその時、救いの神が現れた。
「ルキアス、何やら奇妙な事やってるな」
現れたのはツンツン撥ねた赤い癖毛の少年だ。ルキアスとはそのベクロテまでの旅の最後の四日間を一緒した仲である。
「ザネク! お願い! 少しこの材木を見ていてくれない!?」
「おおっ!? そりゃいいけど……」
「ありがとう!」
ルキアスは退っ引きならない用事を済ませに駆け出した。
残されたザネクは首を傾げるばかりだ。
「何だよ。こっちは話し掛けるのにちょっと勇気が要ったのに……」
実のところザネクは少し前からルキアスの様子を見ていた。しかし兄ガノスからルキアスと縁を切るように言われていたことに、自らのせいではないにも拘わらず後ろめたさがあり、話し掛けづらかったのだ。
そこをどうにか兄の言葉を振り払って話し掛けてみれば、ルキアスには何の屈託も無くて拍子抜けしてしまった。
「しかし何だこれ……。熱っ!」
木の正体が気になって手を伸ばしてみると、振れるより前に熱さを感じた。そのせいで木だと言うこと以外に何も判らなかった。
暫くしてルキアスが緩んだ表情で戻って来た。
「ザネク、ありがとう。助かったよ!」
「おう。だったらこいつが何なのか聞かせてくれよ」
ザネクは材木を親指で指しながら少し不機嫌そうに言った。
それはそれとして、ルキアスは今、材木を乾燥させなければならない。乾かさなければ木材として使えないので、早々に行わなければ銃作りが進まない。ダンジョンから出ることなく昼食を摂った後、作業に取り掛かる。場所は螺旋の回廊の近くに移してだ。
乾燥には『加熱』を駆使する。自然乾燥では一年……太くはないのでそこまで行かないとしても、数ヶ月は掛かってしまう。だから多少材木が痛むのにも、割れるのにも目を瞑って高温を以て乾かすのだ。
乾きすぎないように水を掛けながら芯まで材木の芯まで熱を通す。『加熱』は表面を熱するだけだから芯まで熱が通るには時間が掛かる。表面と芯とで温度差が大きいほどに割れやすいので、この段階はあまり急げない。
じゅわじゅわ音を立てて湯気が立つ。この付近では普段に無い光景なので極めて目立っている。しかし湯気は水を掛けるのを止めたからって止まるものじゃない。既に材木自体の水分が蒸発して湯気を立て始めている。夕刻近くもなれば、ダンジョンから引き上げる人が「何だあれは?」と二度見しながら通り過ぎて行く。
(こんな筈じゃ……)
注目を浴びたい訳じゃないのだ。あまり注目されると恥ずかしい。しかしその恥ずかしさに負けて途中で止めてしまえば、材木が割れるリスクばかりが高くなる。それに今止めたところで他に適当な場所も無いのだ。じっと我慢するしかない。
人通りが殆ど無くなり、辺りも薄暗くなる。ルキアスはそろそろ引き上げ時だと考える。できれば徹夜して乾かしたいところだが、退っ引きならない事情で一度はこの場を離れなければならない。しかし放置もできない材木は触ると火傷する現状、持ち歩けない。こうなると切り上げるしかない。
しかしその時、救いの神が現れた。
「ルキアス、何やら奇妙な事やってるな」
現れたのはツンツン撥ねた赤い癖毛の少年だ。ルキアスとはそのベクロテまでの旅の最後の四日間を一緒した仲である。
「ザネク! お願い! 少しこの材木を見ていてくれない!?」
「おおっ!? そりゃいいけど……」
「ありがとう!」
ルキアスは退っ引きならない用事を済ませに駆け出した。
残されたザネクは首を傾げるばかりだ。
「何だよ。こっちは話し掛けるのにちょっと勇気が要ったのに……」
実のところザネクは少し前からルキアスの様子を見ていた。しかし兄ガノスからルキアスと縁を切るように言われていたことに、自らのせいではないにも拘わらず後ろめたさがあり、話し掛けづらかったのだ。
そこをどうにか兄の言葉を振り払って話し掛けてみれば、ルキアスには何の屈託も無くて拍子抜けしてしまった。
「しかし何だこれ……。熱っ!」
木の正体が気になって手を伸ばしてみると、振れるより前に熱さを感じた。そのせいで木だと言うこと以外に何も判らなかった。
暫くしてルキアスが緩んだ表情で戻って来た。
「ザネク、ありがとう。助かったよ!」
「おう。だったらこいつが何なのか聞かせてくれよ」
ザネクは材木を親指で指しながら少し不機嫌そうに言った。
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